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白き死神と赤き竜の物語〜くっつく前〜
イレギュラ討伐〜変異ケルピー〜中編
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突然先ほどの魔物の唸り声も、体液の滑る音も、森の木々のざわめきも…何の音もしなくなって、目を開けた。
真っ白な空間が広がっていた。
誰もいない、上も下も真っ白で自分が立っているのか浮いているのか、それとも落ちているのかさえも分からない不可思議な感覚。
ひたすらに混乱しているが、状況を整理するために一度目を閉じて深呼吸して、再び目を開くとすぐ前方に上品な雰囲気の、垂れ目気味の優しげな銀髪の青年が立っていた。
ケープのついたタイトな白い服を身に纏っており、生地はシルクのような艶を帯びて細かい装飾が施されている。
なぜか分からないが、知っている人だと思った。
反射的に『彼の名前』を僕は呼んだ。
「ユウェ……?」
「ええ、そうです主様」
にこり、とどこまでも優しい笑顔で彼は答えた。
アーティファクトが人の形をとるなんて見たことも聞いたこともなかったが、彼がユウェであるということが紛れもない真実であるのは感覚的に分かる。
そして瞬きをするとまた見知らぬ男性がユウェの隣に立っていた。
線の細いユウェとは違い、上半身裸の彼は野生的な逞しさの、白銀の髪をした男性だった。
「君は……『アディ』」
「そうだ。主様。ようやく会えた」
「君も僕のアーティファクトなの?」
感覚的に名前が分かった野生的な彼、『アディ』が頷く。
「今は時間がありません。主様の危機を払うためにはアディを知ってもらう必要があったのです」
「我の力は主様にとって大きな負担を強いる。それでも守りたいものがある時、どうか我の名を呼んでほしい」
「「そう、まさに今のように」」
矢継ぎ早に彼等が話し、二人がふ、と優しい笑顔を浮かべた瞬間にまた意識が遠くなった。
「「我・私はいつも主様のお側にいます」」
………
「『アディ』、来て」
意識を取り戻すと同時に僕は呼びかける。
体を縛り上げていた触手は僕の体から爆発するように溢れ出した光で霧散し、解放された。
僕の手にあったのは白銀の大鎌だった。
そして、そこからの記憶は無い。
………
イレギュラとの遭遇から数時間後、どういうわけか気がついた時にはイレギュラは跡形もなく消え去っており、異常があった森の気配は正常に戻っていた。
シロが泉のほとりに倒れていて、俺は体が痛むのも構わず這いずってシロの元へと急いだ。
俺が護ると誓った愛しい人が、倒れ伏している。
血液が煮えたぎるような怒りと後悔と焦り、不安が胸いっぱいに広がって、必死にシロを助け起こそうとした。
目を閉じたまま微動だにしないシロの頬に触れると信じられないぐらい冷たかった。
「そ、んな……ウソ……だろ……」
「レオン!!!しっかりしなさい!!!」
絶望に目の前が真っ暗になりかけた時、アイリスの怒鳴り声が聞こえて正気を取り戻した。
いつのまにか彼女も足を引き摺りながらこちらまで来ていたようだ。
「息してるでしょ!!よく見なさい!!死んでないから!!!今すぐ村に戻るよ!!!『リオ』、来て!」
アイリスが自らのアーティファクトである青い槍を呼び出し、俺とシロと自分自身にテキパキと応急処置を施した。傷は見る間に塞がり、痛みも緩和された。
俺は半ば放心状態だったが、最悪の状況は免れたということだけを理解してシロを大事に抱え、アイリスと共に村へと走った。
後編に続く
真っ白な空間が広がっていた。
誰もいない、上も下も真っ白で自分が立っているのか浮いているのか、それとも落ちているのかさえも分からない不可思議な感覚。
ひたすらに混乱しているが、状況を整理するために一度目を閉じて深呼吸して、再び目を開くとすぐ前方に上品な雰囲気の、垂れ目気味の優しげな銀髪の青年が立っていた。
ケープのついたタイトな白い服を身に纏っており、生地はシルクのような艶を帯びて細かい装飾が施されている。
なぜか分からないが、知っている人だと思った。
反射的に『彼の名前』を僕は呼んだ。
「ユウェ……?」
「ええ、そうです主様」
にこり、とどこまでも優しい笑顔で彼は答えた。
アーティファクトが人の形をとるなんて見たことも聞いたこともなかったが、彼がユウェであるということが紛れもない真実であるのは感覚的に分かる。
そして瞬きをするとまた見知らぬ男性がユウェの隣に立っていた。
線の細いユウェとは違い、上半身裸の彼は野生的な逞しさの、白銀の髪をした男性だった。
「君は……『アディ』」
「そうだ。主様。ようやく会えた」
「君も僕のアーティファクトなの?」
感覚的に名前が分かった野生的な彼、『アディ』が頷く。
「今は時間がありません。主様の危機を払うためにはアディを知ってもらう必要があったのです」
「我の力は主様にとって大きな負担を強いる。それでも守りたいものがある時、どうか我の名を呼んでほしい」
「「そう、まさに今のように」」
矢継ぎ早に彼等が話し、二人がふ、と優しい笑顔を浮かべた瞬間にまた意識が遠くなった。
「「我・私はいつも主様のお側にいます」」
………
「『アディ』、来て」
意識を取り戻すと同時に僕は呼びかける。
体を縛り上げていた触手は僕の体から爆発するように溢れ出した光で霧散し、解放された。
僕の手にあったのは白銀の大鎌だった。
そして、そこからの記憶は無い。
………
イレギュラとの遭遇から数時間後、どういうわけか気がついた時にはイレギュラは跡形もなく消え去っており、異常があった森の気配は正常に戻っていた。
シロが泉のほとりに倒れていて、俺は体が痛むのも構わず這いずってシロの元へと急いだ。
俺が護ると誓った愛しい人が、倒れ伏している。
血液が煮えたぎるような怒りと後悔と焦り、不安が胸いっぱいに広がって、必死にシロを助け起こそうとした。
目を閉じたまま微動だにしないシロの頬に触れると信じられないぐらい冷たかった。
「そ、んな……ウソ……だろ……」
「レオン!!!しっかりしなさい!!!」
絶望に目の前が真っ暗になりかけた時、アイリスの怒鳴り声が聞こえて正気を取り戻した。
いつのまにか彼女も足を引き摺りながらこちらまで来ていたようだ。
「息してるでしょ!!よく見なさい!!死んでないから!!!今すぐ村に戻るよ!!!『リオ』、来て!」
アイリスが自らのアーティファクトである青い槍を呼び出し、俺とシロと自分自身にテキパキと応急処置を施した。傷は見る間に塞がり、痛みも緩和された。
俺は半ば放心状態だったが、最悪の状況は免れたということだけを理解してシロを大事に抱え、アイリスと共に村へと走った。
後編に続く
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