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餅蔵

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赤き竜と白き死神の物語

スライム討伐

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side:Siro



 スライムとは

 特定の元素が集中して集まる場所では精霊が生まれるが、その場所が瘴気に侵されてしまった場合、精霊の出来損ないに瘴気が入り込み、どろりと溶けたゼリー状の元素生物と成り果てる。

 それをスライムと呼ぶ。

 何の元素を含んでいるかは色や見た目で判別でき、物理攻撃への耐性と帯びている元素への耐性が高く、体内の宝石状の『核』を破壊すると即座に死滅する。



 今回の依頼は廃棄された地下道に発生したスライムの駆除とのことで、レオンと、仲間の半獣人の男性『レイヴン』、人族の女性『アイリス』の四人で受けることになった。


 地下道は距離が長く、東端と西端にそれぞれの入り口があるため二手に分かれて殲滅に当たることとなる。

 僕とレオンが東側を担当し、レイヴンとアイリスが西側を担当することになり、それぞれが配置についた。


「おれ、シロくんと一緒がよかったのにな~~」


 と、黒猫の半獣人(ベースは人族だが獣耳と尻尾が生えている)のレイヴンがずっとぼやいていたが、それぞれの戦闘スタイルのバランスを考えるとこの組み合わせが最も効率が良い。

 アイリスが、嘘泣きをしているアゴヒゲの猫男(レイヴン)の首根っこを掴んでずるずると引きずって行ったのは面白かった。

 アイリスは黙っていると長く美しい黒髪と空のように青い美しい瞳もあいまって華奢な美人といった風貌だが、力は強いし気も強い。まさに姉御肌といった感じで頼れる仲間だ。

 二人とも腕の立つ冒険者だから、あんな風にふざけてはいるけど信頼して西側を任せられる。


「地下道は闇と水の元素が濃いみたいだから、スライムもそっち方面だと思う」

「おう、まァスライムなんざ核ごと叩き切っちまえば瞬殺だぜ」


 ダハハ、と得意げに豪快に笑うレオンは半竜というだけあって体つきの逞しさの通り力が強く、身の丈ほどの大剣の形をしたアーティファクト(個々人固有の武器)を軽々と振り回す程だ。

 しかしスライムは物理的に切ったり突いたりしても、ゼリー状に固まった元素が邪魔をして核に刃が届く前に威力を殺してしまう。

 そのため元素術を得意とする僕が彼のサポートに回るというのが今回の組み分け理由である。


「僕が相殺属性の元素を付与するから、レオンは好きにやっちゃってね」

「ああ、シロには指一本触れさせねーから安心してくれ」


 ……スライムに指と言える部分があるのかは疑問が残るが、頼りになるのは間違いない。ずっと共に戦い続けてきた冒険者仲間だからだ。

 それに、彼はいつだって僕を護ることを優先してくれる。それは危うさでもあったが、僕も彼を守れるだけの力はある程度あると自負している。

 故に心配も不安も、カケラも持たずにいつも依頼をこなせるのだ。


 さて、地下道を進むと、廃棄されて年月の経った道は湿気と先を隠す濃い闇で覆われている。


「『ユウェ』」


 僕の呼びかけに応じて手の中に現れたのは白銀の長い杖。これが僕のアーティファクトである『ユウェ』だ。

 光の元素を杖先に集めて振ると、幾つかの光球がふわふわと現れて闇に隠されていた道を柔らかく照らし出した。


「シロの元素術はいつも頼りになるな」

「ありがとう……レオン、居る」

「あァ、見えたぜ」


 光に照らされた道の先、曲がり角になっているところに、黒い水が意思を持って盛り上がり、蠢いているようなものが見える。

 スライムだ。


「ありゃ闇元素のスライムか?」

「そうみたい。光の元素を付与するよ」

「頼む。『ウル』、来い!」


 レオンが呼びかけたのは彼のアーティファクトである、紅く燃える大剣『ウル』。

 火の粉と共に現れた大剣をレオンは軽々と構え、先に控える魔物、スライムに向けて駆け出した。

 苔を踏み、蹴り上げながら力強く駆けるレオンに僕は杖を向けて、光の元素を剣に纏わせた。


 勢いを落とすことなく繰り出されたレオンの振り下ろしをまともに喰らったスライムは、ブシャリと不快な音を立てて飛び散った。


「うぇ、気持ちワリィ」

「うまく一撃で核を潰せたね。流石レオン」

「お前の元素術のお陰だぜ。ありがとな」


 剣についたスライムの残骸を振り払いながらこちらに戻ってきたレオンが僕の頭を撫でた。

 レオンを信頼しているから僕は集中して術を行使できるし、彼が僕を信頼してくれているから、彼は全力を出せるのだろうかと思うと、ひどく嬉しい気持ちになる。

 そんな調子で順調にスライムを見つけてはレオンが叩き潰し、頭数が多い時は僕も元素術でレオンの倒し漏れを始末してゆく。


 中程まで進んだところで聞き慣れた声が聞こえてきた。


「シロく~ん!会いたかったよ~!」


 飛び跳ねるように走り寄って僕に抱きついたのはレイヴンだ。

 なぜか分からないけど、出会った時から彼はこうして僕に距離近めのスキンシップをし続ける。

 良い人だし信頼しているから嫌な気持ちになったりはしないが、彼が僕にくっついている時のレオンの顔は少し怖い。

 ベリっと音がしそうな勢いでレオンはレイヴンの首根っこを掴んで僕から引き剥がし、そのままレイヴンをゴミみたいにぽいっと投げ捨てる。


「何すんだよ~!感動の再会なのに~!」

「シロに気安く触るんじゃねェ」

「またやってんのアンタら…」


 アイリスが呆れた様子でやって来て、僕の肩を抱いた。


「シロはあたしのだから」

「「なんでだよ!!」」


 こんな感じで、なんだかんだ皆仲良くしてくれるのは僕としてはとても嬉しいことだ。


 地下道のスライムは綺麗に全て掃除できたらしい。心なしか空気も入る前より澱んでいないように思う。

 しかし瘴気が溜まりやすいこのような場所は定期的に魔物が発生してしまうから、おそらくまたしばらくすると同じ依頼をすることになるかもしれない。

 でも僕たちなら多分、またこうやって楽しくうまくやってのけることだろう。

 そんな根拠のない絶対的な安心感に包まれながら、僕たちは宿に戻り依頼達成の報告を行った。



今回の報酬:一人あたり銀貨20枚

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