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餅蔵

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赤き竜と白き死神の物語

薬草狩りの依頼

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side:Siro



 季節は土の暦。

 旧き人は『秋』と呼ぶ、それは火の暦の暑さを水の暦の雨季が徐々に冷まし、森の木々に、田畑の作物に実りがもたらされる季節。


 空気は澄み渡り空は僅かに黄金のベールを纏ったような美しい青。

 肌をひんやりと包む風が心地よく、この気持ちよさを全身で味わってみたくなって、友人であり頼れる仲間の一人と共に依頼をこなしている途中だというのに『僕』は森の開けた場所、陽の光が降り注ぐ下草の上に寝転んでみた。


 草の青々とした香りと、周囲を取り囲む紅葉した木々の芳醇な香りを胸いっぱいに吸い込むと、自分もまたこの大自然と一つになれているような気がする。


 目を瞑って大の字に寝転び、じっとしていたら、サクサクと枯れ葉と下草を踏む音が近づいてきて、すぐ右隣によく知った気配を感じた。

 ドサリと音がしたのは、『彼』が僕と同じように隣に寝転んだ音だろう。そっと瞼を開けて右を見ると、間近にかち合った視線。


 鋭い三白眼は明るいカンラン石色の縦長の瞳。鼻の頭には一文字の傷跡。ニヤリと笑う口元にのぞくのは白く尖った牙。

 彼は確かに、人相が悪いというか凶暴そうな顔立ちと言えるのだろう。

 初対面では高い身長とガタイの良さも相まって彼の圧に恐れを成して縮こまる人が多いのは仕方ないのかもしれない。

 でも僕は彼がとても優しくて温かい人だと知っている。


 横向きに寝転んで僕をじっと見ている姿は大型犬のようにも見えた。


「シロ、おまえ~サボってんのかァ?」


 揶揄うような低音の声が、その薄い唇から紡がれる。この声を聴くたびに、何故か胸がぎゅっと熱くなるような気がするから、だから僕は彼の声が好きだ。


「レオンだ。バレちゃったか。ちょっと休憩してただけ」

「はは、まァ結構歩いたもんな。俺もちっと休憩すっかな」


 そう言うと彼、レオンはそのままゴロンと転がって僕と同じように大の字になり、空に視線を向けた。


 小鳥がさえずりながら青く遠い空を駆けてゆく。ざぁ、と一陣の風が木々と草を揺らす。

 レオンは目を閉じて「うーん」と唸った。


「気持ちいいなここ」

「そうだね。ずっと居たい」


 僕の言葉にレオンが首だけ動かしてこっちを見る。


「だーめだ。たんまり摘んだ薬草を届けなきゃなんねーだろ?」

「えー。ふふ、そうだね。ヴァイスさんも待ってるし」

「ギルドマスターはどうでも良いんだ……ただ……」


 そこまで言って不自然に言葉を切ったのが気になってレオンの方を見ると、彼はふい、とそっぽを向いてしまった。

 彼のツンツンした髪の色と同じぐらい耳が赤くなっているように見える。


「俺はお前が離れちまうのは嫌だ……」

「じゃあ一緒にここに住む?」

「……それなら良いかもな」


 冗談で言った提案だが、まさかの返答を得られてしまった。

 レオンはまだそっぽを向いたまま。


「お前と一緒に居れるなら、どこだって」


 ひときわ強い風が吹き、木々が大きくざわめいた。青い清涼感のある香りが一際強く香り、その奥にどこか近くで咲いているのであろう花の甘い香りも感じられた。

 レオンが何か言ったようだが、聞き取れなかった。


「え?なんて言ったの?」

「なんでもねェ!ほら、そろそろ休憩終わり!」


 ガバッとレオンが起き上がり、僕の手を取った。

 ぐいっとそのまま勢いよく引き上げられ、勢い余ってレオンの胸元に倒れ込む。

 彼は半分竜の血を引いているらしく、寒さや暑さに耐性があるためか、いつも上半身は薄着で今日も素肌に黒革の(防御性能はかなり高いらしいワイバーンの革らしい)ジャケットを羽織っただけの軽装だ。


 逞しい裸のかたい胸板にぶつかって、「ぐえ」とみっともない声を出してしまった。
離れようとしたが、何故か両腕でガッチリホールドされてしまっていた。

 耳元に触れている彼の胸板から彼の心音が響いてくる。とても早い。


「レオン?どうしたの?」

「……やっぱあとちょっとだけ休憩な」

「このまま?……もう。変なの」


 僕の問いに答えず、僕の頭に彼は顔を埋めた。甘えているのだろうか?ぐりぐりと顔を擦り付けられている。

 レオンはこんなに逞しくて大きいのに、行動はたまにこうやって子供じみているところがある。

 それにしても……僕の体臭は体質上ほぼ無いに等しいのだが、嗅ぐのはやめてほしい。恥ずかしい。


 でも、今日はなんだか別にいいか、という気持ちになったのでされるがままに抱きしめられ、頭を嗅がれておくことにした。



 その後、気が済んだレオンに解放されてから依頼主に摘んだ薬草を届け、依頼を達成した報告に宿へ二人で帰った。



今回の報酬:二人合わせて銀貨十枚


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