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しおりを挟む「…嫌だ」
まるで、駄々をこねる子供の様な台詞
「…死んで欲しくない。
俺は、菖蒲に死んで欲しくない」
やっと絞り出せた言葉は、
そんな言葉だった
菖蒲の瞳が揺れて
初めて微笑みが崩れる
自分以外の家族を全員亡くす―
それは、俺には
想像出来ない位の痛みと苦しみだろう
その菖蒲の苦しみを和らげる言葉も、
取り除く方法も分からない
何より、菖蒲自身が
“死”を望んでいる事も、話から伝わって来た
…だから、俺が言った言葉は
きっと菖蒲にとっては“不正解”
でも、菖蒲をこのまま死なせる事―
それだけは、絶対に嫌だって分かる
「…ねぇ、知ってる?」
俯いた菖蒲の声が震える
「去年の自殺者数、2万1081人だったんだって。でも…数字って、冷たくて残酷だね。この数字を聞いても、君は何も感じないでしょう?
でも…でもね、その2万1081人の内の4人は…その内の4人は、私の大事な、かけがえのない家族だったの。誰も、その4人の代わりになんてなれない。
誰かが言った。“時間が経てば、いずれ傷は癒える”って。…でも、そんなの嘘だよ。どれだけ時間が経っても、傷は癒えない…ただ、皆を思い出す度に痛いだけ。
…ねえ、死にたくなる位、胸が痛むの。胸が痛くて痛くて堪らないの。息をする事さえ、苦しいの。皆を思い出さない事、忘れる事なんて出来ない。
でも…私の世界の全てだった、家族が死んでも、外の世界は変わらずに廻ってる。誰も立ち止まったりしないし、見向きもしない。テレビのニュースを見て、最初は お花を置いてくれる人が居ても、すぐに忘れ去られて、今はもう皆、何も無かったかの様に、笑っているの。
…なんで、笑えるの。なんで…こんな、いつも通りなの。私はもう、一生心から笑う事なんて出来ないし、許されないのに…ただ、私だけがずっと、あの日から進めずに、立ち止まってる」
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