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「はぁー…」

もう何度目かも分からない、
深い深い溜息が出た


あれから俺は
鞄を持って教室を去り、

目的もなく
ただ電車に揺られていた

行き先なんて、決まってない

ただ来た電車に乗って、
終点になれば また乗り継ぐだけ


そうこうして
3時間は経っただろうか

空はすっかり闇を下ろして
夜を作り始めていた

もうとっくに県境なんて
越えているはずだ


どの方向に向かっているかも
今夜の寝所をどうするかも

分からないけど

何となく、何となくホッとした


もしかしたら俺は

ずっと、こうしたかったのかもしれない

“学校”という
あの騒がしい空間から

“教育”という名の
くだらない義務から

遠く、逃げ出したかったのかもしれない


もう全てが
どうでも良くなっていた

…いや、元から どうでも良かったけど

きっかけさえあれば、
俺は いつだって投げ出せていたんだ


…母親も今更
俺を探したりはしないだろう

こういう時、
兄弟が居なくて良かったと思う

弟でも妹でも居れば、
あの母親の元に残すのが気掛かりで

こんな事は出来なかっただろうから


「…大地」

誰も居ない電車の中で、
一人呟いてみる


ずっと、心の奥深くに
閉じ込めていたはずなのに

思い出さない様に
していたはずなのに

葵のせいで
その蓋が緩んでしまった


胸が 心の奥が、鈍く痛んで来る

まるで

“自分が犯した罪を忘れるな”と
言われている様に


その痛みに耐える様に、
俺は少し唇を噛んだ

そして、左腕にある

横一直線に引かれた傷に
ゆっくりと指を滑らせてみる

「…なんで、あの時 お前は-」

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