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「一緒に行っても良い?」

そう言いながら
ふわりと微笑むのは
同じ学科のクラスメイト、川崎だった

トイプードルみたいな
ふわふわの茶髪に、透き通った薄茶色の瞳

耳には 輪っか状の
金色のピアスを付けていた

容姿端麗で
少し天然が入っている為、

本人は気付いていないが
女子受けが良い


「…別に良いけど」

川崎とは対照的に
俺は低い声で ぼそりと返す

そんな態度の俺でも、川崎はまた
あの 人当たりの良い笑顔で微笑む


「ねぇ樹、そういえば
3限の課題やった?」

「…いや、まだ途中」

「良かったー!俺、実は昨日
寝落ちして、まだ課題やってなくてさー…」


俺は、人付き合いが面倒で
あまり人とは関わりたくないタイプだ

それでも、川崎は好きだった

変に踏み込み過ぎず、
離れ過ぎず、丁度良い距離で楽だ

正直、今大学に
川崎以外 まともに話す人は居ない

あと たまに話すのは
幼馴染の葵くらいだ


いつも通りの朝
いつも通りの変わらない日常

少しつまらない気もするが、

面倒臭い 争い事に
巻き込まれるよりはマシだ


俺は、このまま

なんとなく大学に通って
なんとなく就職して

なんとなく大人になっていくのだろう


…それで良い

どうせ、生きている事に
意味などないのだから

俺に、何かを成し遂げる事など
出来ないのだから


しかし、その日の昼休み
事件は起こった

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