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しおりを挟むちくしょ―。
ふだんギャーギャーうるせぇくせに可愛いとこなんぞ見せやがって、思わず涙が出そうになっちまったじゃねぇか。
それなのに、思い出のウサギとセットで写り込む黒パンが、感傷的な気分を根こそぎ奪っていく。
エロゲーだったら、事後のピロトークに使われたっておかしくないレベルの告白だっつーのに。
まったくにもってドキドキしない。
「で、そのウサギと俺の質問とどう関係があるつーんだ!?」
「あ、うん。私がおどおどしてたのって全部お父さんのせいだって知ってるよね?」
「あぁ、そうだったな」
夏実の本当の父親――
聞いた限りでは、それなりに優しかったらしいのだが、新しい女が出来てからは激変。
ある日突然見知らぬ女を連れて来たと思ったら『出ていけ!』と、怒鳴り散らし。
直ぐに出て行かない夏実達に向かって蹴るは殴るは、そりゃもう、酷いもんだったそうだ。
「い、一応、念のために言っておくけど。私、お父さんのこと同情とかしてるわけじゃないからね。むしろ自業自得、ざまぁみろって感じだし」
「あぁ、確かフライパンで顔面まったいらにされたとかってヤツだよな?」
「あ、うん、実はそれって、ちょっと嘘ついてるとことかあったりするんだよね」
「はぁ! ざけんじゃねぇ! こっちはなぁー……?」
「ば、バカ! いま、大事な話ししてるんだから、しっかりパンツ見てなさいよね!」
グキっと嫌な音と共に、ものすごい勢いで頭を押さえつけられた。
ありえねぇ、とんでもなくありえねぇ。
夏実のセリフもありえなければ、真っ赤な顔して照れてる夏実とかもっとありえねぇぞ。
きっちり確認してぇのはやまやまだが。
「こっちみんなバカ! あんたわパンツだけ見てればいいの!」
思いっきり頭を押さえられちまっていて見たくても見れん。
っていうか、そもそも。なんで、今の話しの流れであんな顔する必要があるんだ?
俺、別に変なこと言ってねぇよな?
「と、とにかく! お父さんが潰されたのは、顔だけじゃなくて玉も一緒に潰されたって言いたいの! 」
「えっ?」
反射的に股間を両手でガードしていた。
何もされていないはずなのに、背筋に冷ややかなものを感じずにはいられない。
「あと、腕とか足とか曲がっちゃいけない方向に折れ曲がっちゃったりしててさ。たまたま隣に警察の人が住んでたから良かったけど。一歩間違えば、お母さん殺人犯になってたかもだったんだよね」
「聞いてねぇよ、んな話し!」
そりゃ、フライパンで殴っただけで警察のお世話になったってのは、ちと大げさ過ぎやしねぇか?
とは思ったさ。でもさ、娘蹴り倒されてブチギレたにしたってそこまでするか普通?
って、恵おばさん普通じゃなかったか……
おふくろも、『死んでも恵おばさんだけは本気で怒らすな』って言ってたし。
なにせ学生時代に作った武勇伝が、いまだに語り継がれるレベルらしいからな。
「俺、しばらく、フライパン見れねぇかも」
「どう? 私がフライパン嫌いな理由少しは分かってくれた?」
「あぁ、頼むから恵おばさん怒らすようなことだけはしないでくれ」
「なにいってんのよ! この場合、あにきの方に決まってんじゃない!」
「はぁ、なんで、俺なんだよ!? どっかのバカなおっさんじゃあるまいし、自殺するようなまねなんぞするわきゃねぇだろうが!」
「だ、だって、あにきと私って。こ、婚約者同士なわけだしさ」
「んなもん、口からでまかせに決まってんじゃねぇか!」
「あ、うん、それは、なんとなく分かってたんだけどさ。お母さん、そのての冗談って大っ嫌いだって忘れてたでしょ?」
「げ……」
言われてみればその通りである。
「それに浮気とかしたら変なスイッチ入っちゃうかもじゃない。だからさ、私と付き合うとか、そーゆーの抜きにしても、あにきが女の子泣かすようなまねしたらさ、また玉潰しちゃうかもじゃない?」
「ヒィっー!」
「だからさ、浮気厳禁って一晩中言い続けたんだよね」
「へ~……そ、そりゃ、痛いみいる、ご好意感謝感激で、ござりまする」
「言っとくけど、今さら動揺したって遅いんだからね!」
「んなもん分かりたくもねぇけど分かっとるわい!」
どちくしょー。人を呪わば穴二つだっけか?
てかむしろ自爆じゃねぇかどうすんだよ!
「な、なぁ夏実。この部屋クーラー効きすぎじゃね?」
「はぁ、暑いから全開にしろって言ったのあにきじゃない!」
はい、そうでした。
ごめんなさい。
なんか、もう色々と、詰んだってことか……
「まぁ、この場合、年貢の納め時ってやつなんじゃないの?」
「つまり、俺達は、いずれ結婚するって事なんだよな?」
「え、えぇ、そうよ」
声、うわずらせてんじゃねぇよ!
めちゃくちゃ気になるじゃねぇか。
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