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しおりを挟む俺の部屋には、ノックもなしでズカズカ入って来るくせに、自分の部屋には入れたがらない。
よほど見られたくないものでもあるかと思えば、そうでもなかった。
ゲームに出てくるヒロインに例えるなら、特に趣味のない地味な女の子の部屋と言ったところだろうか。
もっとも入って早々ベッドの前に正座させられ。パンツを見続けてるんで詳しくは分からん。
それでも記憶に間違いがなければ、おふくろが使ってた頃からほとんど変わっていないような気がした。
薄緑色のカーテンだけでなく、家具もそのまま使っているようだ。
可愛い小物なんかが、そこらかしこにある女の子っぽい部屋を見てみたかったのだが、夏実なんぞに期待した俺がバカだった。
普段着ている服にだって、これといったこだわりは見られないし。
ある意味、夏実らしいと言えば、そうなのだが……
実に、つまらんやつだ。
ここ最近増えたものと言ったら、枕元に置かれた木製の人形くらいだろう。
その隣には、お年玉で買ってやったウサギのぬいぐるみ。
ウサギの方は見れなくもないが人形の方は別。黒々としたボディに、真っ赤な帽子。ギョロリとした白い瞳。
粗雑な出来栄えのせいで、よけい不気味に見えるのだ。
それでも、こうして一緒に置いてあるのだから、それなりに気に入ってるのだろう。
『これはね愛を育む人形なんだって』
と説明され。
それをまにうけたのか、結構喜んでいた。
そして、なんとなく帽子を外して見たら、中から四折の紙がでできて――それには、なんだかよく分からない絵が描かれていた。
俺には、病人を看病しているように見えたが、恵おばさんは男性が女性に愛をささやいているところだと言い。夏実は眠ってる男性に向かって女性が忠告をしているところだと主張した。
ようするに見る人しだいで見解が変わる抽象的なものだったのだ。
本命としては、現地人の説明に近い恵おばさんの意見なのだろうが。めんどくさいことに夏実がムキになって反論。
その流れで実験をすることになり。
検体は、当然というか、やっぱりだったというか、俺だった。
実験の内容は俺が眠ったあと、夏実が部屋に忍び込み忠告をし続けるというもの。
そして、その翌朝から。
この身体は、異常なまでに眠りを欲する体質になっちまった。
しかしながら、その反面でめちゃくちゃ美味しい夢を見れるようになったのだ。
万が一にでも、あの人形が引き起こした奇跡だとするなら、大切にしたくなるのも当然であろう。
人形を燃やせば、事態が改善するのでは?
と言う意見も出たが、俺の猛反対により。夏休みが終わるまで人形の寿命は保証された。
出来ることなら、学校に通いながらも――夜になったら、ちあき達とイチャイチャしたいからである。
当然であろう。例え夢だったとしても、そうそう手放せるようなものじゃない!
むしろ、さらなる欲求を求めたいくらいだ!
江藤さんルートが追加されたのならば――
さらに新たなるルートが追加される可能性だってあるのだ!
だからこそ!
それを実現させるためにも。
なぜか、なるべく触れないようにしてきた状況の整理をする他ないだろう。
「っていうか、さぁ。なんで浮気厳禁だったんだ?」
少し、間があった。
何を言いあぐねているか知らないが、聞き取れないほどの、微かな呟きが続いている。
想定以上に厄介な理由でもあるんか?
いやいや、夏実に限ってそりゃないだろ。
言いたいことはズケズケ言うし、気に入らなければ殴る蹴るは当たり前。
暴力キャラが許されるのは二次元限定にしてほしい。
リアルにやられたら痛いだけだっつーの!
「あ、うん。それはね……」
夏実は、そういいながらウサギを手に取って見せてきた。
パンツが隠れないように、右太ももの上にちょこんと乗せている。
「ねぇ、これのことって覚えてる?」
どうやら、俺の質問に答える気はないらしい。
まぁ、かなり強引なやり方だったし。
さっきの沈黙も怒っているからだとしたら当然か。
仕方がない。パンツショウは後回しにしてやろう。
「まぁ、それなりにわな」
妹が出来た記念だとかいう気のきいたプレゼントなんかじゃない。
ことあるごとに、怯えたり泣き出したりするヤツを、子供ながらになんとかしよう考えたすえ。
『コイツ持ってれば何があってもだいじょうぶになるんだぜ! なにせ魔法使いのばあさんに頼んで魔法かけてもらったからな!』
とか言う、いい加減なウソをつくために使った小道具である。
もちろん、知り合いに魔法使いなんていないし。おがみ倒して足りない分を後払いにしてくれたのだって店のおばさんでしかない。
今さらながら……よく、お年玉払いを受け付けてくれたもんだ。
この世界も、まだまだ捨てたもんじゃねぇのかもな。
「全部、これのおかげだと思うんだ。素直に言うとね。今でもすっごく感謝してるんだよ」
「まぁ、イワシの頭も信心からって言うしな」
「んも~、バカ! でもね、不思議と効果があったのも事実だし。この子が居れば一人でも寝られるようになったし。たぶん、私にとっては一生の宝物になるんじゃないかな」
「そりゃ、よかったな」
「なに、他人事みたいに言ってんのよ?」
「んなもん、本音言ったら恥ずかしいに決まってんじゃねぇか」
薄汚れてるというよりも『これでも頑張ってきれいにしたんだよ』と言わんばかりだし。
ところどころ補修のあとも見られる。何度となく恵おばさんが、とりつくろってくれたからだ。
いつでも、どこでも、常に一緒。
そう言っても過言じゃないくらい夏実と共に過ごしてきたのだ。
むしろ、良く原形をとどめていると褒めるべきだろう。
これほどまでに大切にしてくれたのなら、文句なんてあるわけない。
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