エロゲーの主人公になってみたい人生だった

日々菜 夕

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呪いの人形とパンツ1

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「いい加減! 起きろって! このエロアニキ!」

 薄暗い部屋の中で俺は、女の子に顔を踏まれていた。
 正確には妹の夏美に――

 妹? 夏美?
 あれ、江藤さんは……?

「夢落ちってこと?」
「ったく、毎晩毎晩エロイ夢見ちゃってさ!」

 そういや俺って変な呪いにかかってて、パンツ見てないと眠くなるっていう、珍妙な状況になっちまってるんだった。
 ということは、あれか?
 新たに江藤さんルートが追加されたって事で良いのか?
 いいんだよな!?
 あんな始まったばかりでいきなり終了とか、体験版にしたって物足りねぇもんな!

 とりあえず現状把握しよう。
 枕元にあるスマホに視線を移そうとすると、急激に襲い来る眠気。

「ぐはっ」
「だから、寝るなって何度いったらわかんのよ!?」
「色気のかけらもねぇ、てめぇのパンツなんぞ見たところで、面白くもなんともねぇからだろうが!」
「ふんっ! これでもサービスしてあげてるんだから、感謝しなさいよね!」

 まったく! どうして、そんなもんに感謝しなきゃならねぇんだよ!
 確かに、パンツを見ていれば、こうして俺は起きている事ができる。
 でも、お腹から太ももまで覆い隠す補正下着なんぞみたところで、エロイ気分になんてなれるはずもなく……
 視線を外すたびにこうして叩き起こされる――っていうか今は踏まれてるんだけどな。
 あいにく俺は、女の子に踏まれて興奮するような性癖は持ち合わせていない。

 っていうか、なんでパンツ見てると起きてられるんだっけ?

 意味が分からないし、そこに行きつくまでの過程が、はっきりしない。
 いくら記憶をたどっても、靄がかかってるみたいで……ダメだ、思い出せない。
 なんか気づいた時には、妹に顔を踏まれていて、スカートの中が見えてて、それで俺が起きていられるのが分かって。
 以来、俺は大半の時間――妹のパンツを見ながら過ごしている。

 普通に考えたら、とんでもない変態だった。

「ほら、あんまり遅くなると、またお母さん心配するから!」
「あぁ、そうだな」

 朝っぽいもんな、きっと朝食が用意されているんだろう。
 普通に起き上がって、部屋の状況を確認するとエロゲーやらラノベが、ところせましと並んでいた……パタリ。

「すや~~~。ぐはっ!」
「だから寝るなって言ってんでしょうが!」
「だからって! いちいち蹴ったり殴ったりしなくてもいいじゃねぇか!?」

 これじゃ状況確認も出来なきゃ、記憶にある夏美の顔と、本当の顔が合致するかも分からない。
 たしか髪は少し明るめに染めていたような気がする。
 あと、そこそこ可愛かったような気もするが……
 こんな乱暴者は好きじゃない。っていうか嫌いなタイプだ!

「うっさいわねぇ! だったらきちんとパンツ見てなさいよね!」
「だったら、もっと拝みたくなるようなエロイパンツにしやがれ!」
「――っ! んなことできるわけないでしょうが!」
「ぐっ!」

 パンツを見ている俺からは完全なる死角。
 脳天にげんこつが降ってきやがった。
 ちくしょう、なんでこんなめにあわされなきゃなんねぇんだよ。
 そりゃ夢の中に逃げ出しったくもなるわな。
 あ~あ。胡桃にそっくりな江藤さん……攻略してぇなぁ。

「と・に・か・くっ! あんたは、私のパンツだけ見てればいいの!」

 結局。言われるがまま、夏美のパンツを見ながらリビングに向かったのだった。



 リビングに入ると、蛍光灯がついているようだった。
 そりゃそうか、こんなんでも一応下着姿だもんな。カーテンくらい閉めてあるか……
 夏美は当然のようにテーブルに乗る。俺は、それを見ながら椅子に座る。
 食事している間、寝落ちしないようにするためだ。
 視野の中にパンツがあれば起きていられる。
 ただパンツを見てるだけでは、ほとんど効果がなく。今のところ夏美が履いているパンツを見るのが最も効果的だった。
 正直なところ、こんな色気のないパンツ見ながら飯を食っても美味くない。
 でも、あきらめるしかないと言うのが現状だった。
 用意されていた食事はハムエッグに野菜サラダとパン。そしてドロドロしているめちゃくちゃ濃いコーヒー。
 ここまで濃いと体に悪いのは分かっているが、少なからず眠気を遠ざける効果があるため。
 その時間を利用してトイレに駆け込むと言うのが、最近の生活スタイルだったりする。
 味わうと言うよりは、死なない程度のカロリーを無理やり摂取しているという感じ。
 食事を終えると、予定通りトイレに駆け込む。

 トイレから出ると、めちゃくちゃ眠かったはずの眠気が、夏美のパンツを見ただけで吹き飛ぶから不思議だ。

 とはいえ、夏休みが終わる前に現状を打破しなければならない事に変わりはないだろう。
 現状最も優先すべきは、画期的な打開策の提案及び、その実行である。
 それを話し合うためにリビングに戻るってのが、ここ最近の日課だった。
 目の前には夏美のパンツ。

「一樹《かずき》君。いい加減、諦めはついたかしら?」 
「へ……?」

 左斜め前に誰か座っているのは分かっていた。
 ただ、誰なのかがいまいちわからなくて――
 朝の挨拶をしただけで、それ以外の会話をしていなかった。
 夏美の母親ってのだけは思い出せたが……名前が、なんだっけ?

「あの、スイマセン。なんか記憶がぐちゃぐちゃになってて、どなたでしたっけ?」

 重いため息一つ。

「ほら、やっぱり色々と問題が出て来たじゃない。いつもは、『恵《めぐみ》おばさん』って呼んでくれてたでしょう」
「あ……」
「ったく、エロイ夢ばっか見てるから、現実がなんだかわかんなくなってきちゃってるのよ!」

 そうだった!
 恵おばさんじゃん! 
 なんか色々と思い出して来たぞ。
 新婚旅行のお土産でもらった人形が原因で、こんな事態になっちまってるんだった。
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