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しおりを挟む佐藤と如月さんが様子を見てくると言って部屋から出て行ってくれてほっとしていると――
「ねぇ、相場くん……」
背中の方から消え入りそうな声が聞こえた。
そうだよ、あまりの展開についてけなくってほったらかしにしちゃってた娘がいたじゃん。
慌てて振り向くと、江藤さんはまだ半泣き状態だった。
「あははは。ごめんね、なんかよくわかない話になっちゃってて」
「ん~ん。それより二人だけで行かせちゃってよかったのかな?」
これで声に張りがあって悪ガキっぽさが加われば胡桃そのままなんだが……
まぁ、それは置いておこう。
「大丈夫だって。先生達が言ってた話は全部嘘で、歓迎会の準備をするための時間稼ぎなだけだから」
「え……」
「だから、みんな無事だし。佐藤達も、どの程度準備が進んでるのか確認しに行っただけ」
「そう、だったんだ……」
またしても消え入りそうな声で、やっぱり私ってダメな子なんだ、と言って江藤さんは泣き始めてしまった。
安心して泣き始めたってんならまだマシだがどうやら他にも理由がありそうだ。
これがエロゲーだったらとりあえずセーブしておいてから好感度の上りそうな選択肢を選ぶだけなんだけど……
残念な事に、そんな選択肢は発生してくれたりしない。
だからリアルはクソゲーだっていわれるんだよなぁ。
「もし、よかったらなんだけど話、聞かせてもらってもいいかな?」
「う……うん」
栗色の瞳が、本当にいいの? と問いかけていた。
「大丈夫、他の人に聞かれるのが嫌な事だったらここだけの話にするから」
「あのね――」
江藤さんの話してくれた内容は――ある意味、俺?
相場勇気とよく似ていた。
いつも誰かに頼らないと生きて行けないような生き方をしてきたために、自宅から遠く離れた学校に無理やり放り込まれたって展開だった。
俺と同じで、遠方からの入寮者特典として正式な入寮日よりも早く寮に押し込まれている。
中でも、とても親しかった友人との別れが、彼女を余計に追い込んでしまっているようだ。
親として、この先の事を考えての事なんだろうが。
明らかにマイナスだろ、これって。
おそらく飛び越えられるハードルを用意したつもりなんだろうが、そんなのは自己陶酔に近い。
落とされたらそれで終わり。這い上がる力のない者に無理強いしたところで結果は見えている。
ただひたすらに泣きわめくか、その場にずっと居続けるだけ。
そもそも一人で生きて行けるような強い心を持っているのなら誰かに依存して生きようなんて考えすら持たないだろう。
それを分かっていながら自分本位な考えを押し付けた結果がこれだ。
自分達が出来るから自分達の子供もできるはずだ!
そんなのは出来る側の理屈でしかない。
じゃぁ、どうすればいいのか?
答えは簡単だ。
誰かが支えになってあげればいい。
それが、この江藤さんを攻略するために用意されたルートなんだろう。
「そのさ。俺、見ての通り男だからさ。みっちゃんとか、さっちゃんだとかみたいには無理だけどさ。それでもこうして話すくらいは出来るから」
「その……本当に?」
瞳の奥に宿る希望の火は、まだまだ小さそうだが全くダメって事もなさそうだ。
これはもう押せ押せな展開、一択だろ!
「あぁ。だからさ。良かったら友達になってよ」
「うん。ありがとう。それと朝は笑っちゃたりしてごめんね」
「いいって、そんなの気にしてないから」
「ん~ん。違うの。実は私のお父さんもね、お酒飲むたびに『いつかは一家に一台じゃなくて一人一台の時代が来るって』言っててね。それが相場君の言ってた話にちょっと似てて。それでちょっと嬉しくなっちゃったっていうか」
「そうだったんだ。きっとくるよ一人一台の時代がさ」
「そうだね。そんな時代に生まれてたら、きっとこんな気持ちにもならなかったんだろうなぁ」
「やっぱり俺だけじゃ寂しい?」
「あっ! えっと、そういうことじゃなくって!」
「冗談だって、冗談。きっと如月さんも友達として色々助けてくれるだろうし……って、ゆーか。もしかして俺いなくても困らなかったりするかもだね」
「んも~。意地悪言わないでよ!」
「あははは」
うん、やっぱり悲しい顔は似合わない。
ちょっぴり、すねてるけど。今の方がずっと可愛い。
時間的に、佐藤達もドアの向こうで入るに入れず困っている頃だろうし。
少なくとも俺達三人は彼女の味方として今後も仲良くやっていけるだろう。
そして、あわよくば江藤さんを――
ドアの方に向かって声をかけようと歩み始めた瞬間だった。
足元から身体ごと崩れ去るような感覚がして視界が暗転。
「あ、相場君!」
江藤さんが叫ぶような声を上げているのに何も応えられない。
一体全体何がどうなったんだ!?
*
気付いた時には黒いパンツが視界に飛び込んできた!
「いい加減! 起きろって! このエロアニキ!」
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