風に凪ぐ花

みん

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魔王の卵

(幕間)

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 なぜ、うまくいかない。


 彼は夜の明け切らぬ暗黒を、ゆっくりとがむしゃらに前進していた。
 腕に、頬に当たる草木が煩わしい。
 夜露に濡れたそれらは彼の不快感を煽った。

 いつも彼の前にある闇を照らしてくれていた相棒は、もういない。
 そこまで長い付き合いではなかった。
 それでも、初めて得た相棒だった。
 名を与えて、いつもそばにいて。

 それが。

 還って、しまったのだという。
 いや、奪われてしまったのだ。

 それも、自分の意思とは関係ないところで。


 彼はぐっと唇を噛んで足を止めた。


 いずれ力のある精霊を手にしたら、還すつもりではあった。
 相棒とはいえ、その程度の価値だった。

 けれど。

 今まで自分の思い通りにならぬものなどなかったのだ。
 それが、奪われた。

 気に食わない。

 しかも、手に入れたいものは、すでに人のもので。
 奪うことも出来ずに、手のひらからただすり抜けていった。

 にくい。
 憎い。
 ニクイ。
 すべてが。

 どろどろとした心のうちを吐き出せぬままに、夜を彷徨うしかない自分も。


 そして。

 ふと上げた視線の先。

 見つけたのは、一つの石だった。

 草木に埋もれた手のひらに収まる小さな石。
 それはまるで、卵のようで。

 なぜか、酷く魅力的だった。

 木々の隙間から差し込んだ夜明けの光が、つるりとした表面を滑り落ちる。

 知らずしらずに口角が上がった。

 そして彼は。

 それを光明と信じて、一息に飲み込んだ。

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