風に凪ぐ花

みん

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魔王の卵

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 心地よい風に揺られて。
 体ごと溶けてしまうような感覚に酔う。
 木々の隙間から漏れる光が体に降り注ぐのが気持ちが良くて眠ってしまいそうだ。
 頭の中が空っぽになって、ざわざわと木の葉が風に遊ばれる音すらも置き去りになる。

 うっすらと笑みの形になった唇の端を自覚しながらゆらゆらと体を揺らし、風花は全身で大気の魔素を感じていた。

「ヨン! 何をやってる!」
「ふえ?」

 突然耳に届いた音に驚いて身体が現実を知覚する。
 風花は傾いた視界に木咲の姿を映して、声と反対の方向に跳躍した。
 先程まで腰を下ろしていた岩が真っ二つに裂ける。
 飛来した炎の球。
 駆け寄ってきたハチが水流を当てて炎上する前にその炎を消す。

「え、何、なんで……?」

 それを呆然とした気持ちでただ風花は見つめていた。
 直前まで反応が出来なかった。
 自分の身に起こったことが受け入れられずに棒立ちになる。
 ふわりと精霊に背中を小突かれて、風花は簡単に風に浮いた。
 背中を下から支えられながら、木咲と、そしてチームメンバーを交互に見る。

「ヨン!」
「呼ぶな!」

 咎めるような木咲の声に反射的に言葉が出た。
 はっとして口を両手で押さえる。
 ぞわりとした不快感が身体中を駆け巡って、風花は困惑から狼狽えた。

「ぁ、ごめ……っちがくて、えっと、ごめんなさい……」

 木咲の眉が顰められたのは、怒りからではないことを風花は理解していた。
 扱いに困っているのである。
 戸惑っているのだ。
 サンも。
 ジュウゴも。
 ハチも。

「……討伐中に気を散らすと怪我に繋がる。気をつけろ」

 あれほど規律を重視していた木咲が風花にそれ以上の言葉を述べることはなかった。

「……はい」

 だから風花も、返事だけを返す。
 ぐっと噛み締めた唇の震えに気が付いているだろう。
 けれど、誰も何も言わない。

 風花がこの状態になったのは今が初めてではなかったからだった。

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