49 / 52
魔王の卵
7
しおりを挟む
心地よい風に揺られて。
体ごと溶けてしまうような感覚に酔う。
木々の隙間から漏れる光が体に降り注ぐのが気持ちが良くて眠ってしまいそうだ。
頭の中が空っぽになって、ざわざわと木の葉が風に遊ばれる音すらも置き去りになる。
うっすらと笑みの形になった唇の端を自覚しながらゆらゆらと体を揺らし、風花は全身で大気の魔素を感じていた。
「ヨン! 何をやってる!」
「ふえ?」
突然耳に届いた音に驚いて身体が現実を知覚する。
風花は傾いた視界に木咲の姿を映して、声と反対の方向に跳躍した。
先程まで腰を下ろしていた岩が真っ二つに裂ける。
飛来した炎の球。
駆け寄ってきたハチが水流を当てて炎上する前にその炎を消す。
「え、何、なんで……?」
それを呆然とした気持ちでただ風花は見つめていた。
直前まで反応が出来なかった。
自分の身に起こったことが受け入れられずに棒立ちになる。
ふわりと精霊に背中を小突かれて、風花は簡単に風に浮いた。
背中を下から支えられながら、木咲と、そしてチームメンバーを交互に見る。
「ヨン!」
「呼ぶな!」
咎めるような木咲の声に反射的に言葉が出た。
はっとして口を両手で押さえる。
ぞわりとした不快感が身体中を駆け巡って、風花は困惑から狼狽えた。
「ぁ、ごめ……っちがくて、えっと、ごめんなさい……」
木咲の眉が顰められたのは、怒りからではないことを風花は理解していた。
扱いに困っているのである。
戸惑っているのだ。
サンも。
ジュウゴも。
ハチも。
「……討伐中に気を散らすと怪我に繋がる。気をつけろ」
あれほど規律を重視していた木咲が風花にそれ以上の言葉を述べることはなかった。
「……はい」
だから風花も、返事だけを返す。
ぐっと噛み締めた唇の震えに気が付いているだろう。
けれど、誰も何も言わない。
風花がこの状態になったのは今が初めてではなかったからだった。
体ごと溶けてしまうような感覚に酔う。
木々の隙間から漏れる光が体に降り注ぐのが気持ちが良くて眠ってしまいそうだ。
頭の中が空っぽになって、ざわざわと木の葉が風に遊ばれる音すらも置き去りになる。
うっすらと笑みの形になった唇の端を自覚しながらゆらゆらと体を揺らし、風花は全身で大気の魔素を感じていた。
「ヨン! 何をやってる!」
「ふえ?」
突然耳に届いた音に驚いて身体が現実を知覚する。
風花は傾いた視界に木咲の姿を映して、声と反対の方向に跳躍した。
先程まで腰を下ろしていた岩が真っ二つに裂ける。
飛来した炎の球。
駆け寄ってきたハチが水流を当てて炎上する前にその炎を消す。
「え、何、なんで……?」
それを呆然とした気持ちでただ風花は見つめていた。
直前まで反応が出来なかった。
自分の身に起こったことが受け入れられずに棒立ちになる。
ふわりと精霊に背中を小突かれて、風花は簡単に風に浮いた。
背中を下から支えられながら、木咲と、そしてチームメンバーを交互に見る。
「ヨン!」
「呼ぶな!」
咎めるような木咲の声に反射的に言葉が出た。
はっとして口を両手で押さえる。
ぞわりとした不快感が身体中を駆け巡って、風花は困惑から狼狽えた。
「ぁ、ごめ……っちがくて、えっと、ごめんなさい……」
木咲の眉が顰められたのは、怒りからではないことを風花は理解していた。
扱いに困っているのである。
戸惑っているのだ。
サンも。
ジュウゴも。
ハチも。
「……討伐中に気を散らすと怪我に繋がる。気をつけろ」
あれほど規律を重視していた木咲が風花にそれ以上の言葉を述べることはなかった。
「……はい」
だから風花も、返事だけを返す。
ぐっと噛み締めた唇の震えに気が付いているだろう。
けれど、誰も何も言わない。
風花がこの状態になったのは今が初めてではなかったからだった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

愛人は嫌だったので別れることにしました。
伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。
しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?


お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる