45 / 52
魔王の卵
3
しおりを挟む「ハ、はぁ……っ」
やっと安定した呼吸の出来るようになった風花は、自らの腕の中のライルの素養を胸いっぱいに吸い込んだ。
震える腕には、力は全く込められていない。
体を起こしている気力もなく、風花はライルに体を預けて辛うじて瞼を開けていた。
「部屋に戻ろう」
「ん」
「待てよ!」
気遣うライルを止めたのはまたしてもユナだった。
肩をいからせたユナの周りがうっすらと歪む。
ぶつぶつと小さく呟いているのが精霊の召喚呪文だと知ったのは、小さな炎を纏った猿だった。
校舎内での精霊の召喚に、周囲が被害を悟って騒めいた。
誰よりも目を見開いたのは風花だ。
これはいけない。
反射的にこの後の顛末を予期した風花はユナではなく精霊に語りかけた。
「だめ……っ、君は、まだ……っ」
「ふう?」
「まだ、生まれたばっかりなのに……っ」
ユナの怒りに反応して火力を上げる小さな精霊。
風花は動かない腕を必死に伸ばして精霊を止めようとした。
ライルが周囲への影響を図りながらも風花を守る腕を強める。
「やめて……っ」
《ごしゅじんの! かなえる!》
風花の静止を受け止めず、遂に精霊は、小さくはない火の玉を風花に吐き出した。
「くっ」
ライルが風花を庇うように覆い被さる。
風花はその隙間から火の玉を目で追いながら、絶望的な気持ちで目の前の光景を見ていた。
《看過できぬ》
廊下一面に響いた声。
風花だけでなく周囲の生徒にまで届いたその声は、炎の獅子の形となって火の玉を消した。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

愛人は嫌だったので別れることにしました。
伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。
しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる