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異変
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しおりを挟む敷地内の森を背に、黒い靄が渦巻いて巨体を形作る。
歪みの発現だ。
ライルは腰の剣に手を当てて、ゆっくりとその姿と対峙した。
どんどんと大きくなるその歪みはもはや木の背丈よりも高い。
ぎろりと目が作られた頃には、それが大きな鹿の形になったことがわかった。
頭の上に聳える鋭い角。
嘶くたびに上げられた脚の一つひとつが驚くほどに太い。
ライルは自分では敵わないと早々に見切りをつけて、くるりとその場を見渡した。
「全員退避!! 魔騎士を呼べ!」
そこかしこで上がる生徒の悲鳴の中、ライルの指示が飛ぶ。
足の竦んだ生徒を立ち上がらせ、ライルは中庭を駆けた。
歪みは足で地面を抉って、校舎に向かって突進を始めている。
その直線上には、自分がいた。
避け切れるか否か。
いや、無理か。
助かっても大怪我は免れないと、ライルは腹を括った。
出来るなら最後に風花に会いたい。
風花を守って死にたかった。
(ふう……っ)
剣を構えた腕で、頭をガードする。
心の中で叫んだ名前は、届いただろうか。
大きな衝突音と、衝風。
しかし備えた衝撃は、いつまでも身に降りかかることはなかった。
恐る恐る開いた瞼に、可視出来るほどの、淡いグリーンの、風。
「るぅ、呼んだ……?」
目の前で歪みの突進を受け止めていたのは、目に怒りを宿した風花だった。
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