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異変
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しおりを挟むライルはその日、早朝から学内を歩いていた。
訓練地へ向かうため裏門に集合するためである。
同じ様に訓練地へ向かう生徒がそこかしこに早足で歩いている。
おはようございますと声をかけられて、ライルは顔面に笑顔を貼り付けると挨拶を返した。
生徒代表運営官を務めるライルの顔は広い。
と言っても一方的に知られていることが大半ではあるが、ライルは役目は役目として望まれる姿を心がけていた。
実態として、ライルがこの学内において本心を曝け出しているのは腹心のノアハと風花だけである。
あの日目の前に落ちてきた精霊は、ライルの心を簡単に奪っていった。
ライルが生徒代表運営官になったのは初学年から二学年に進級する間際のことである。
前任者からの指名で意図せず役職に就くことになったライルは、引き継ぎの前にまっさきに補佐官としてノアハを指名した。
器ではない、とライルは未だに自己評価している。
器ではないものを器たり得るように偽るには、それを誤魔化す鎧が必要だった。
ライルは公正明大を装って人当たり良く学園生活を送っているが、実際はかなり利己的な性格である。
貴族の四男という生まれからか権力意識は毛頭ないが、だからこそ自分のやりたい様に日々を過ごしたかった。
名も知らぬ領民を守るよりも、もっと大切なものがあるはず。
領民を守るのは自分の役目ではない。
腹心のノアハは自分の守るべき対象ではあるが、家族と一括りの範囲内で賄える存在は、ライルの中の飢えを補うほどのものではなかった。
ライルは、守ることに、飢えていた。
不特定多数でも、家族でもなく、自分だけが庇護し、愛する、そんな存在を、求めていた。
そんな最中、目の前に現れた風花は、ライルが求めて止まないものを、簡単に与えてくれたのだ。
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