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規律
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しおりを挟む「またこの書類か……」
ライルがため息とともに書類をテーブルの上に放り投げたのはそれからしばらくしてのことだった。
足早にライルに近付いたノアハが手元の書類を覗き込む。
内容を目で追ったノアハは、何かに気がつくと形の良い眉をぎゅっと顰めた。
「ああ……あの子ですか」
「あの子?」
ノアハがそんな顔をする存在が気になって風花はふわりと舞ってライルの背後に回った。
首に腕を絡めて髪に鼻先を埋めながらテーブルを覗き込む。
「ユナ=マイセル?」
書類の中身はその人物に対する陳情のようだった。
日々の行いから、何からずらっと事実かどうかはさておき複数の陳情が挙げられている。
「初学年の夏学期で大怪我をして療養していたのだが、ついこの間復帰してな……」
「問題あるの?」
「問題というか……」
ユナは良家の子息であった。
そしてその権力を振りかざすことを良しとする気概であり、高飛車で傲慢な生徒だったのだという。
怪我をしたというのも担当魔騎士の指示に従わなかった故のことのようだ。
療養から戻っていくらか矯正されたと思われた性格は、今もなお継続しているらしい。
「それよりもなぁ……」
「彼はライルに懸想してますからね」
「なにそれ?!」
ノアハの言葉に風花は思わず声を上げて飛び上がった。
風花の感情に反応して取り囲む風の精霊がくるくると風を巻き起こす。
「ふう落ち着け!」
ライルの腕が風花を引き寄せてノアハが窓を閉める。
見事な連携により鎮静化されたその場で風花はライルをより強く抱きしめて毛を逆立てた。
「るぅは! おれの!」
「そうだな、ふうも俺のだ」
ぎゅうと二人で抱き合って、ソファに移動する。
正面から抱きついた状態でぽんぽんと頭を撫でられて、風花はようやく落ち着きを取り戻した。
ノアハが散った書類を集めてまとめ、新しいお茶を持ってソファにやってくる。
テーブルに並べられた揃いのティーカップが、風花の満足度を高めた。
「ところで、そろそろキスくらいしたんですか?」
ノアハの口から齎された衝撃に風花は顔を赤くして、風と共にその部屋を立ち去った。
「おいおい、ゆっくり口説いてるんだから、あんまり揶揄うなよ」
「精霊さんは自覚するのに時間がかかりそうだと思ったので。でも、あの様子じゃあすぐですね」
「それはどうかな」
微笑みあった二人には風花は気が付かないままだった。
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