35 / 52
規律
6
しおりを挟む「またこの書類か……」
ライルがため息とともに書類をテーブルの上に放り投げたのはそれからしばらくしてのことだった。
足早にライルに近付いたノアハが手元の書類を覗き込む。
内容を目で追ったノアハは、何かに気がつくと形の良い眉をぎゅっと顰めた。
「ああ……あの子ですか」
「あの子?」
ノアハがそんな顔をする存在が気になって風花はふわりと舞ってライルの背後に回った。
首に腕を絡めて髪に鼻先を埋めながらテーブルを覗き込む。
「ユナ=マイセル?」
書類の中身はその人物に対する陳情のようだった。
日々の行いから、何からずらっと事実かどうかはさておき複数の陳情が挙げられている。
「初学年の夏学期で大怪我をして療養していたのだが、ついこの間復帰してな……」
「問題あるの?」
「問題というか……」
ユナは良家の子息であった。
そしてその権力を振りかざすことを良しとする気概であり、高飛車で傲慢な生徒だったのだという。
怪我をしたというのも担当魔騎士の指示に従わなかった故のことのようだ。
療養から戻っていくらか矯正されたと思われた性格は、今もなお継続しているらしい。
「それよりもなぁ……」
「彼はライルに懸想してますからね」
「なにそれ?!」
ノアハの言葉に風花は思わず声を上げて飛び上がった。
風花の感情に反応して取り囲む風の精霊がくるくると風を巻き起こす。
「ふう落ち着け!」
ライルの腕が風花を引き寄せてノアハが窓を閉める。
見事な連携により鎮静化されたその場で風花はライルをより強く抱きしめて毛を逆立てた。
「るぅは! おれの!」
「そうだな、ふうも俺のだ」
ぎゅうと二人で抱き合って、ソファに移動する。
正面から抱きついた状態でぽんぽんと頭を撫でられて、風花はようやく落ち着きを取り戻した。
ノアハが散った書類を集めてまとめ、新しいお茶を持ってソファにやってくる。
テーブルに並べられた揃いのティーカップが、風花の満足度を高めた。
「ところで、そろそろキスくらいしたんですか?」
ノアハの口から齎された衝撃に風花は顔を赤くして、風と共にその部屋を立ち去った。
「おいおい、ゆっくり口説いてるんだから、あんまり揶揄うなよ」
「精霊さんは自覚するのに時間がかかりそうだと思ったので。でも、あの様子じゃあすぐですね」
「それはどうかな」
微笑みあった二人には風花は気が付かないままだった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

龍神様の神使
石動なつめ
BL
顔にある花の痣のせいで、忌み子として疎まれて育った雪花は、ある日父から龍神の生贄となるように命じられる。
しかし当の龍神は雪花を喰らおうとせず「うちで働け」と連れ帰ってくれる事となった。
そこで雪花は彼の神使である蛇の妖・立待と出会う。彼から優しく接される内に雪花の心の傷は癒えて行き、お互いにだんだんと惹かれ合うのだが――。
※少々際どいかな、という内容・描写のある話につきましては、タイトルに「*」をつけております。

英雄の帰還。その後に
亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。
低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。
「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」
5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。
──
相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。
押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。
舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
BL団地妻on vacation
夕凪
BL
BL団地妻第二弾。
団地妻の芦屋夫夫が団地を飛び出し、南の島でチョメチョメしてるお話です。
頭を空っぽにして薄目で読むぐらいがちょうどいいお話だと思います。
なんでも許せる人向けです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる