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規律
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しおりを挟む「第一、これは騎士団の任務じゃなくて、授業でしょ? 歪みとの戦い方以前に、身の守り方をまず教えないと」
「お前に何がわかる!」
木咲は風花の胸ぐらを掴んで罵声を浴びせた。
風花を見る目は、憎き仇を見るように光っている。
奇しくもそれは正解であったが、ここに持ち出す正論ではない。
「わかんないよ。逆に聞くけど、あんたは一体何をそんなに恐れてるの? 叛逆して処刑されるなんて、この子たちには関係ないよ。そしてあんたにもね」
処刑を実行していたのは風花だ。
それも数年前にその任を降りている。
すでに国王の反乱分子はその殆どが粛清されてこの世にいない。
木咲は父親の最後を知っているからこそ、国に叛逆することはないとわかっている。王も、風花も。
だから、処刑されることもない。
それはここにいるチームメンバーも同様だ。
風花の今の任務はそれではない。
「サバイバルで命を守るのは最優先事項だよ。それに勝る規律なんてない。それを教えられないなら、ひよっこの担当魔騎士なんてやめちゃえば」
「……」
風花の言葉に、木咲は答える術を持たなかった。
自分の中の確固たる規律と、担当官としての任務、そして風花の正論に揺らいでいるのだ。
「あの、俺」
最初に口を開いたのはサンだった。
「俺は、魔騎士になりたいわけじゃなくて、冒険者になりたいって思っててそれで……」
「ぼ、僕もですね! 看護院に入りたいんです。騎士団の治癒院でもいいんですけど、民間の……」
「俺は別に戦えりゃあそれで……」
木咲は驚愕からか、目を見開いて固まっている。
学園に入学した以上、皆一概に魔騎士を目指すと思っていたのだろう。
目から鱗、と言った様子の木咲は頭を抱えて項垂れた。
風花は、将来の自分を語る彼らを、温かい目で見つめていた。
そこに嫉妬心がないわけではない。
定められた道を進む自分と違って、彼らは酷く輝いて見えて、風花はそんな彼らを応援したくなった。
「ほら、魔騎士になりたい子なんて一人もいないじゃん。やりたいことに合わせて、得意を伸ばしてあげるのも、教育のうちなんじゃないの?」
木咲は大きくため息を吐くと、わかった、と一言呟いた。
世界の全てが規律で出来ているわけではない。
そう理解した男の目は、今までよりも一段と輝いていた。
「お前は、何になりたいんだ」
その瞳に背中を押されて、風花も素直に言葉を紡ぐ。
「俺は、守りたいものを守る。それだけだよ」
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