風に凪ぐ花

みん

文字の大きさ
上 下
31 / 52
規律

2

しおりを挟む

「?」

 野営の二日目の朝となる日。
 風花は妙な気配を感じて目を覚ました。
 人としての終わりが近い風花の睡眠は非常に短い。
 休息のために最低限を満たした後はただ無になっているだけだ。

 まだ日も出ていない明け方の空気。
 揺らいだ気配に風花は自分のテントを出た。
 火の番をしていたサンが何事かと風花に視線を向ける。

 途端。

 雄叫びが辺りに轟いて空気が震撼した。

「ひっ」

 短く悲鳴を上げたのはサンだった。
 体高の大きな猪に似た歪みが、野営地に向かって突進してくる。
 風花は風で障壁を築いてその突進を受けた。

「みんなを起こして!」
「はいぃぃぃ!」

 縺れた足を動かしてサンが風花の指示に従って行動を開始した。
 さすがと言うべきかサンの到着を待たずに木咲がテントから踊りでてくる。

「起きろ! 歪みだ!」

 木咲の号令でジュウゴとハチもテントから顔を出す。
 その体はまだ寝起きから覚醒し切ってはいない。

 木咲は武器を持ってフォーメーションを組むように彼らに指示を出した。
 その指示に、風花の脳内がすっと冷える。

 風花は芽生えた感情を誤魔化すように歪みを弾き飛ばした。
 怒り狂った歪みが咆哮を上げるために開いた口に、手の中に作った風を投げ込む。

 それは、木咲の父にしたのと同じように歪みの体内を切り裂き、わずかな抵抗の後、歪みは沈黙した。
 体が霧となってぼろぼろと崩れるのを耳届けてから、風花は呆然とする彼らを振り返った。
 その顔に、表情はない。

「ヨン、お前……」
「あのさ」

 風花は一足で木咲の前に躍り出て、その横面を殴り付けた。
 木咲が地面に跡を付けながら弾け飛ぶ。
 目を丸くするチームのメンバーを尻目に、風花は風を足先から纏って木咲の元に足を進めた。

「あんた、このチームから人死にを出したいの?」
「な……っ」

 殴られた頬をそのままに風花を見上げた木咲が、心外だとばかりに風花を睨み上げる。
 一発殴って心が落ち着いた風花はため息を吐いて、木咲に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

「隊列を乱すな、フォーメーションを組め、言いたいことはわかるよ。騎士団には必要なことだね」

 木咲は肯定されると思っていなかったのか、まんじりとせず風花の言葉の続きを待っている。
 風花は木咲の前に腰を下ろすと、様子を伺っているメンバーを指先でその場に招いた。
 彼らが戸惑って顔を見合わせているのを気配で感じた風花は、サンを名指しして火を持って来させた。
 それに続いて全員が車座に座る。

 その間に座り直した木咲を見て、風花は言葉を紡いだ。

「でもさ、実習って、規律を守るようにする訓練じゃないよね?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

BL団地妻on vacation

夕凪
BL
BL団地妻第二弾。 団地妻の芦屋夫夫が団地を飛び出し、南の島でチョメチョメしてるお話です。 頭を空っぽにして薄目で読むぐらいがちょうどいいお話だと思います。 なんでも許せる人向けです。

処理中です...