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過去との邂逅
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しおりを挟む一人きりになった部屋。
討伐実習は明日からだ。
午前の説明会を終えた生徒は、皆、自室に戻り討伐実習に備えていた。
風花はクロークを開け、ひっそりと存在を主張する漆黒の鎧を見つめていた。
護国魔騎士団は、一小隊十名程度からなる小規模の隊の集まりであった。一つの任務はおよそ五小隊ほどで行うが、それが護国魔騎士団の全体ではない。
護国魔騎士団は、百の小隊を一つの中隊として、一つのエリアに配置している。
エリアごとに二十の中隊が束ねられ、大きな部隊へと編成される。
部隊は合わせて五つあり、東西南北、中央に設置されていた。
東西南北の部隊は歪みの討伐、中央は王族の警護が主な任務である。
魔騎士は、所属ごとに鎧と色が分けられていた。
東西南北の鎧は深紅、深蒼、深緑、深黄、そして中央は深白。
任務中の彼らはそれに合わせ、仮面をしつらえることが通例であった。
同じ鎧を纏う魔騎士団の中で、目の下から顎までを覆う仮面が、彼らのアイデンティティを象徴する唯一のものであったのだ。
風花は、自らのアイデンティティである仮面を手に取った。
つるりとした表面に鏡のように自らの顔が映る。
これは、国王から賜ったものだった。
風花が護国魔騎士団で正式に働いていた最初の頃、その任務は国王に害なす反乱分子の殲滅が大半を占めていた。
粗方の反乱分子がいなくなった今でこそ大規模な歪みの討伐を与えられるが、それはここ数年のことだ。
その昔、ハイエンナール家という貴族があった。
今世の初期から存在する由緒ある貴族で、代々領民の信頼の厚い、優秀な当主が治めていた。
風花の一番最初の任務は、ハイエンナール家当代の当主を暗殺することであった。
風花が護国魔騎士団に招かれたのは、十歳になるかならないかの時分であった。
魔力行使の素養が異様であった風花は、家の地下で化け物としてひっそりと閉じ込められていた。
外の世界を知ったのは、代替わりした国王が姉の光雨(ヒサメ)を先見の巫女として召し抱えた時であった。
光雨の最初の先見が、風花を護国魔騎士として見出したのだ。
《深央都にとって、命(めい)を左右せしめる風が吹く。
身の内にあらば、最なる盾に。
手の内にあらば、最なる剣に。
収めなば、枯れぬ定めなれど。
収めれば、散りゆく定めなれど。
収めなば、咲かぬ。
収めなば、風も吹き止まん》
その先見の数日後、風花は初めて姉に謁見した。
新しい国王は風花に道を示した。
咲いて散るか。
咲かずに散るか。
風花は、自らの立場を受け入れ、十歳で初めて、人を殺した。
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