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過去との邂逅
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「この中に契約精霊を持ったことのない生徒はいますか?」
穏やかな教師の一言からそれは始まった。
深央都では契約精霊を持つことは一般的である。
魔騎士ではない一般市民の中にも、便利だからと精霊と契約しているものもいるくらいだ。
契約せずとも召喚することによって、一時的に精霊の力を借りることは出来る。
風花が普段宙に浮いて生活しているのも、一瞬の精霊召喚だ。
召喚では、任意の精霊を呼ぶことも、意図して限定的な性質の精霊を呼ぶことも出来た。
個人の素養によって、複数と契約することもしないことも選択できる。
カルネとスィールは精霊と契約していた。
カルネの精霊は炎を纏った猫。スィールは上半身が人間、下半身が魚の精霊と契約している。
隊の面々は、各々動物を象った精霊と契約を交わしていた。
風花以外は。
風花は素直に挙手をした。
教師が次の質問を繰り出す。
「精霊を召喚したことはありますか?」
風花は是と答えた。
「それでは、好きな精霊を召喚してみてください。契約精霊のいるみなさんにはこのあと呼び出してもらいます」
教師には意図があった。
契約精霊を持つものは、精霊を呼ぶことに慣れている。
魔騎士ならまだしも、生徒や一般人で契約精霊を持たないものは、得てして召喚に時間がかかった。
授業のペースを合わせるためであっただろう教師の提案は、風花の次の行動で破綻を迎えた。
「どんな精霊でも構わないですか?」
「はい。種族も性質も問いませんよ」
風花は教師に確認し、右手を顔の前で構えた。
ぱちん。
「だれかおーいで」
風花が指を鳴らした瞬間。
風花の前には身体中に薄紅色の花弁を散らした、半透明の精霊が現れた。
春の精霊はふわふわとした髪を肩口で揺らしながら、風花の前の地面にぺたんと座り込んだ。
柔らかなワンピースを思わせる皮膚を地面に広げて、精霊は嬉しそうに風花を見上げている。
『ごきげんよう、同胞。何かご用?』
精霊は風花に腕を伸ばしながら微笑みかける。
風花は精霊の腕をすくって、そっと立ち上がらせた。
「うーん。授業で君が必要みたい」
『であれば、私が力を貸しましょう』
風花はそこで教師を見た。
教師は目を丸くして固まっている。
あれ? と思い生徒を見るとまた同じ表情で動きを止めていた。
そして風花は気付いた。
また、しくじったと。
「きみは、無詠唱で人型の精霊を具現化出来るんですか……?」
「……そうですけど」
風花は肯定するしかなかった。
それ以外に精霊を呼ぶ方法を知らなかったのだ。
『同胞?』
急くように精霊が風花に声をかける。
風花は、短く待ってね、と伝えた。
それが二つ目のしくじりと知らずに。
「会話も出来るんですか……」
もちろんであるが、精霊の声は風花以外には聞こえない。
契約精霊以外とは会話出来ないというのが、通例であった。
風花は内心勘弁してくれと頭を抱えそうになった。
精霊と教師と生徒のきらきらした目が余計にいたたまれなくする。
そうして風花の素養強化実習の一回目は幕を閉じた。
「風花の精霊に好かれやすい体質って何なんだろうね」
「そうだね……行宗先生が言ってたけど、素養はあんまりないんでしょ?」
二人の会話が耳に痛い。
風花はなんでだろうねーと苦笑いで返すのが精一杯だった。
チラリと手の中のチーム分け表を見る。
ランクSと書かれた欄には風花を含めて四人。
問題は数の少なさではない。
風花は担当の魔騎士の欄を見てため息を吐いた。
穏やかな教師の一言からそれは始まった。
深央都では契約精霊を持つことは一般的である。
魔騎士ではない一般市民の中にも、便利だからと精霊と契約しているものもいるくらいだ。
契約せずとも召喚することによって、一時的に精霊の力を借りることは出来る。
風花が普段宙に浮いて生活しているのも、一瞬の精霊召喚だ。
召喚では、任意の精霊を呼ぶことも、意図して限定的な性質の精霊を呼ぶことも出来た。
個人の素養によって、複数と契約することもしないことも選択できる。
カルネとスィールは精霊と契約していた。
カルネの精霊は炎を纏った猫。スィールは上半身が人間、下半身が魚の精霊と契約している。
隊の面々は、各々動物を象った精霊と契約を交わしていた。
風花以外は。
風花は素直に挙手をした。
教師が次の質問を繰り出す。
「精霊を召喚したことはありますか?」
風花は是と答えた。
「それでは、好きな精霊を召喚してみてください。契約精霊のいるみなさんにはこのあと呼び出してもらいます」
教師には意図があった。
契約精霊を持つものは、精霊を呼ぶことに慣れている。
魔騎士ならまだしも、生徒や一般人で契約精霊を持たないものは、得てして召喚に時間がかかった。
授業のペースを合わせるためであっただろう教師の提案は、風花の次の行動で破綻を迎えた。
「どんな精霊でも構わないですか?」
「はい。種族も性質も問いませんよ」
風花は教師に確認し、右手を顔の前で構えた。
ぱちん。
「だれかおーいで」
風花が指を鳴らした瞬間。
風花の前には身体中に薄紅色の花弁を散らした、半透明の精霊が現れた。
春の精霊はふわふわとした髪を肩口で揺らしながら、風花の前の地面にぺたんと座り込んだ。
柔らかなワンピースを思わせる皮膚を地面に広げて、精霊は嬉しそうに風花を見上げている。
『ごきげんよう、同胞。何かご用?』
精霊は風花に腕を伸ばしながら微笑みかける。
風花は精霊の腕をすくって、そっと立ち上がらせた。
「うーん。授業で君が必要みたい」
『であれば、私が力を貸しましょう』
風花はそこで教師を見た。
教師は目を丸くして固まっている。
あれ? と思い生徒を見るとまた同じ表情で動きを止めていた。
そして風花は気付いた。
また、しくじったと。
「きみは、無詠唱で人型の精霊を具現化出来るんですか……?」
「……そうですけど」
風花は肯定するしかなかった。
それ以外に精霊を呼ぶ方法を知らなかったのだ。
『同胞?』
急くように精霊が風花に声をかける。
風花は、短く待ってね、と伝えた。
それが二つ目のしくじりと知らずに。
「会話も出来るんですか……」
もちろんであるが、精霊の声は風花以外には聞こえない。
契約精霊以外とは会話出来ないというのが、通例であった。
風花は内心勘弁してくれと頭を抱えそうになった。
精霊と教師と生徒のきらきらした目が余計にいたたまれなくする。
そうして風花の素養強化実習の一回目は幕を閉じた。
「風花の精霊に好かれやすい体質って何なんだろうね」
「そうだね……行宗先生が言ってたけど、素養はあんまりないんでしょ?」
二人の会話が耳に痛い。
風花はなんでだろうねーと苦笑いで返すのが精一杯だった。
チラリと手の中のチーム分け表を見る。
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問題は数の少なさではない。
風花は担当の魔騎士の欄を見てため息を吐いた。
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