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潜入と出会い
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しおりを挟む「今日はいい顔をしているな」
「そーお?」
この学園で初めての週末を迎えた風花は、またあの男との会合を重ねていた。
草の上に座る感覚も、見上げる空も、隣にいる男も同じなのに、何故だかこの前とは違って思える。
コツンと窓に当たる合図を、どこか心待ちにしていたのも嘘ではない。
風花は、この男に会うのを、待っていた。
前方にひっそりと咲いた花を見つめて、風花は知らず知らずいつもより少し弾んだ声を紡いだ。
「あのね、俺……、はじめて求めた。怖かったけど、求めたら、求めたらね、少しだけ怖くなくなったんだ」
「そうか……よかったな」
風花は、顔を上げて隣の男を見た。
この気持ちは、この気持ちだけは、目を見て伝えたい。
「だからね、……ありがとう」
二人の間を風が通り抜ける。
男は風花の笑顔に少しだけ目を瞠り、そして嬉しそうに笑った。
それは、風花にだけ向けられた笑みだ。
風花は、高鳴る鼓動の音を聞いた。
今、この空間には二人だけ。
精霊たちも身を潜めている。
男の大きな手のひらが、風花の頭を撫でた。
目を伏せた風花は、全身で男の素養を身に受ける。
もっと、話したい。
もっとこの男の側にいたい。
風花の本能が、心臓をはやらせた。
どれくらいの穏やかな時が流れただろう。
それでも、無駄な時間は一つとしてなかった。
男の手が、促すように髪をくすぐる。
風花は、おずおずと口を開いた。
「名前……聞いても、いい?」
「……ライルだ。好きに呼べ」
らいる。
ライル。
風花は噛みしめるように胸の中で男の名を唱えた。
「……"るぅ"って、呼ぶ。……俺だけだよね?」
この音は、俺だけのもの。
男は再び瞠目して、そして、綺麗に微笑んだ。
「ああ、お前だけだな」
風花はじっと、ライルの瞳を見つめた。
綺麗だ。
ライルの黒曜石のような瞳と、風花のブラウンの瞳が交差する。
「じゃあ俺も、好きに名前、呼んで?」
呼んでほしい。
風花じゃなく、あなたの付けた名前で。
風花は、ライルにだけ呼ばれる名前を心から求めた。
「……そうだな……じゃあ、"ふう"はどうだ?」
「ふ、う……?」
それを理解すると、ぶわりと風花の体を何かが駆け巡った。
足のつま先から頭の上まで鳥肌が駆け上がってくる。
これは、歓喜だ。
「俺は、ふう……」
「ふう。俺の名前を呼んで?」
風花はライルに求められて、生まれてから一番の笑顔で微笑んだ。
「るぅ」
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