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潜入と出会い
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しおりを挟む「ほう……」
「えっ? ええっ? なに? なに?」
「どうなってるの? どうやって出したの?」
反応は三者三様だった。
行宗は感心した様子で眼鏡を押し上げ、スィールとカルネは手品を見たかのような反応を示した。
風花は光を集めて作った剣を右手で握った。
「すばらしい……無詠唱で精霊力を具現化出来るんですね」
「武器を持ち歩くのって面倒くさいじゃないですかあー」
風花の斜め上の回答に行宗は一瞬動きを止めたが、その後すぐに愉快そうに笑い出した。
「き、君は、本当に面白いねぇ……! その様子じゃあ、さも日常的だ」
風花は何も答えなかった。
行宗は眼鏡を外して涙を払い、笑っていた名残を消した。
「さて、真面目な話。君の精霊力の強度を試したい。私と一戦いかがです?」
「お断りします」
行宗の誘いを風花は間髪入れずに即断した。
これ以上目立ちたくない。
「行宗せんせーなら、見ればわかるでしょー?」
大層な目が付いているのだから。
暗に含ませて言うと、行宗はまた笑い出した。
意外と笑い上戸なのかもしれない。
「はははは……! そうだね、君の体が浮いてるように見えるくらいには」
「……ええ? そこまで見えてるの?」
風花は若干引いた。
この学園は何という人材を教師として雇っているんだ。
カルネとスィールは話について行けずに二人の会話の成り行きをただ見守っていた。
風花の足は、普段から地面に触れていない。
踏みしめて歩いているように見せかけているだけだ。
風花は精霊の力で地面から数センチ浮かせてもらっており、空中で足を動かして歩いているかのように装っていた。
「理由は聞かないよ。でもこの質問には答えてね。そこまで常に精霊力を纏っているのなら、相当使い慣れている筈。……君の武器はそれだけ?」
風花は手の中の光の剣に、水を纏わせて答えた。
「ご想像におまかせしまーす」
行宗は風花の回答に満足気にうなづくと、次の生徒の元へと歩いていった。
嵐が去った気分だ。風花は剣を背後に放り投げた。
途端、剣は空気に溶けて消える。
「すごい!」
腰に衝撃を受けたと思ったら、スィールがまた輝いた目で抱きついてきていた。
「すごいよ! 手品師でもこんなこと出来ないよ!」
「風花は自分の好きなときに好きな武器が作れるの?」
「……まあ、そうだねー」
二人の純粋な瞳に負けて、風花はなんてことのないように返事を返した。
二人のすごい、すごいという賛辞が風花の耳にこだまする。
本当はすごくなんてない。
これしか、俺には出来ないから。
風花は曖昧に笑った。
行宗から集合の号令がかかる。
風花は体を向けつつ一瞬思案して、体を宙に泳がせた。
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