9 / 52
潜入と出会い
4
しおりを挟む結果的に風花の作戦は失敗に終わった。
失敗どころか悪目立ちした挙句、他の教師にまで目をつけられてしまったのだ。
生徒たちから突き刺さる好奇の目が痛い。
作戦を遂行するまでもなく、風花はあろうことか教師を伸してしまった。
「これから実施する実力測定の見本を見せよう」
四隊の前衛担当教師は、如何にもな風体で緊張する生徒たちに向き合っていた。
魔騎士団下りなのか、上がり損ねなのかは不明であるが、弱者を下に見る、教えてやっている感の見え見えの嫌な目付きだ。
教師の一言に、列の最後尾にいた風花は、絶対に目を付けられてはいけない、と本能で感じた。
「私と組手をしてもらう。一人指名するので、前に出てくるように」
教師に指名されたのは風花だった。
想定外だ。
皆の実力を見てから合わせて戦う予定でいた風花は、内心どうしたら良いかわからず、返事もせずに立ち尽くしてしまった。
「お前は昨日のオリエンテーションでも、つまらなそうに話しを聞いていたな。これからする実技の厳しさを教えてやる」
どうやら昨日のうちから目をつけられていたらしい。
風花は、ため息を吐きたくなるのを我慢して、前に足を進めた。
「組手は二人一組で五分一勝負だ。十分の休憩ののち、組み合わせを変えて四戦行う。各々の戦闘を見て教師が評価を行い、指導する。この隊は三十人編成で喩術科選択が六名であるから、一度に十二組が戦闘することになる。
あまりに力量に差がある場合や、戦闘困難に陥った場合には教師が止めに入るが、この授業は訓練を前提として実技を行うため、基本的には降参は認めない」
教師は風花から距離を取り、余裕そうに構えを取った。
口元にはいやらしく笑みが浮かんでいる。
指導することよりも、痛め付けることの方が先行しているように思えて仕方ない。
風花は仕方なく教師の正面に向かい合った。
「実技では魔力行使および、精霊の召喚が認められている。魔力や精霊による身体の強化が目的だが、今回は特別に攻撃魔術を使用しても構わん」
この学園の教師レベルであれば、風花の魔力行使の素養の低さがわかるのであろう。
正確に言えば、風花は魔力を内在しているため、素養はないに等しい。
しかし、反して風花が、精霊の加護を受けすぎるほど受けていることを、この教師は理解できていなかった。
教師は完全に風花を、下すぎるほど下に見ていたのである。
言葉の裏に生意気な生徒に俺の強さを見せつけてやる、という棘が丸見えで風花を苛つかせたが、ここは軽く負けるべきと冷静になり開始の合図を待った。
「はじめ!」
「、ぐあ……っ」
「え……?」
開始と同時に吹き飛んだ教師に、その場の誰もが思考を止めた。
吹き飛ばした犯人は風花だ。
しかし、当の本人もまた非常に驚いていた。
開始直後、風花がしたのはたったの二挙動だった。
足に風を集め教師へ向かって飛ぶ。
そこからほんの少しだけ手のひらを強化して、鎖骨に指先を触れさせただけである。
遠くから喩術科と後衛科の担当教師が駆けてくる。
授業は続行不可能。
解散が伝えられて一時その場は騒然とした。
(もしかして、やっちゃった……?)
殺しちゃったの方ではなく、しでかしてしまったの方である。
風花は逃げるように訓練場を後にして、部屋の中で一人大きなため息を吐いた。
風花はその時まだ知らなかった。
魔力の行使も、精霊の召喚も、無詠唱で出来るものがこの学園の教師でさえ、数人しかいないということに。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

愛人は嫌だったので別れることにしました。
伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。
しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる