4 / 52
プロローグ
4
しおりを挟むホームルームが終わると、風花は真っ直ぐに寮へと向かった。
入学初日は、ホームルームのあと自由時間が割り当てられている。
隊の面々の交流を目的に定められた時間であったが、風花は背を向けて誰よりも早く教室を後にした。
別れの辛くなる人間関係など、作らない方が良い。
風花は自分に言い聞かせて風に身を任せた。
心地よい風がまとわりつく。
寮へは教室棟から歩いて十分程度で到着した。
入寮の手続きを簡単に済ませ、風花は自室へと向かった。
一階はエントランスのみで生徒の部屋があるのは二階からだ。
四隊四十六室は、五階の角部屋であった。
ドアノブに手をかけて扉を手前に引く。すんなりと扉は開いた。
物理的な鍵はかけられていない。素肌から体内の魔力の質を検知して解錠する仕様だからだ。
部屋の中に入り、風花は扉を背にため息を一つ吐き出した。
空気が変わる。
風の音が耳に響いて、風花の頬に温もりが触れた。
『人間の同胞(はらから)よ……。我が風の乗り心地は如何であったか?』
半透明の人型の影は、風花の首に腕を絡めるようにまとわりつき、背後に回った。
影は男性のように見えるが、ひどく中性的だ。足元を過ぎるほど長いウェーブかかった髪が流れるようにうねる。
男の体には、腰から布のような質感の皮膚じみたものがさらりと生え、爪先までをも覆っていた。
姿形は人であるのに人でないもの……精霊はくすくすと笑う。
風花の怜悧さが相まって、絵画の一面のようであった。
風花は狼狽えることなく、背中に精霊をくっつけたまま、靴を脱ぎ、真っ直ぐと部屋に足を踏み入れた。
途端。
ふわりと風花は人好きのする笑みを浮かべた。
「ふふ、ありがとー。ついでにソファまで運んでくれる?お話しよー?」
瞬間、風花の体は風に包まれて備え付けのソファに収まった。
精霊は未だ風花の首の後ろだ。
「君だよね。この学園に来てから俺を運んでくれてたの」
『風の便りで聞き及んでいた故。この辺りの精霊は皆、同胞のために力添えをしよう』
「そっか。ちなみに、俺のことが契約精霊を通して人間に伝わるなんてことはないよね?」
『心配には及ばぬ。同胞のことは、精霊の間では暗黙の了解となっている。精霊の質(たち)として、人間に伝わるようなことはせぬ』
精霊の間のつながりは深い。
精霊は気に入った人間と契約することもあるが、完全に使役されるわけではなかった。
契約精霊は、契約主の頼みは聞き入れるが、主従ではない。あくまでも契約なのだ。
「うん。信用する。……まあ、人間が知ったところで、何かが変わることもないんだけどねぇ」
背後の精霊は、ぎゅっと力を強めた。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

愛人は嫌だったので別れることにしました。
伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。
しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる