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躾られた悪意
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しおりを挟む「なーイスミ~」
「なんでしょう?」
「何で俺は留守番なんだ?」
ヤタマルは指揮官となったイスミの背後にぴったりと身を寄せて、ちょうど良い位置にある頭の上に顎を乗せた。
ふわふわとイスミの黒髪が風に乗ってこそばゆい。
イスミはヤタマルを振り払うことなく、そのまま戦闘の様子を観察していた。
イスミのヤタマルへの指示は待機。
真っ先に手駒にされることに慣れたヤタマルには新鮮な指示だった。
「それは……上手く言えませんが、予感と言うやつでしょうか?」
顎に手を当てヤタマルに答えながらも、その視線は眼下から逸らされることはない。
ヤタマルはイスミの表情が気になったが、結局はそのままの体勢でいることを選んだ。
あまりにも心地よい時間だった。
「まあ、僕はただ……僕の役目を果たすだけです」
「……っ」
ゾクリ、とヤタマルの背中をえも言われぬ興奮が駆け上がった。
感情の籠らないイスミの目。
職務に忠実なだけの機械のような意思のない視線。
しかしそれは、何よりもイスミへの信頼を強くしていた。
「やっぱり面白いわ、お前」
言葉にした、その時。
ヤタマルはイスミの気配が変わったのを、肌で感じ取った。
イスミの両手がゆっくりと空にかざされる。
大きく広げられた両手は、ぱたんと体の中心で合わせられた。
本を閉じるかのようなその動作に、この後の展開を期待して全身が総毛立つ。
「サジルさん!」
「待ってたよ!」
呼びかけたイスミの声に、サジルが返事を返す。
イスミは眼下に向けて、通る声で指示を飛ばした。
「攻撃をしていいのは、手に何かを持って嬉しそうなやつだけです!」
「はあ?」
イスミの言葉に思わず《悪意》の集団を覗き込む。
言われてみれば靄のような《悪意》は、手に石や空き缶を持っている個体とそうでない個体に分かれていた。
「持っていても嬉しそうにしていないと駄目です」
ヤタマルにはその違いが全くわからなかった。
他人の感情を受け取れないヤタマルには、その表情から何かを察することは不可能である。
イスミがヤタマルを外した理由がわかり、ヤタマルはその慧眼に溜飲を下げた。
「なかなか注文が多いね! 持ってないやつは?」
「持ちたがるまで待ってください! それは……」
イスミが一度間を置いて息を吸い込んだ。
その目が真っ直ぐに《悪意》を射る。
「ヤタマルさんの《悪意》です!」
ざわりとヤタマルの中の何かが騒めいた。
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