神々のストーリーテラー

みん

文字の大きさ
上 下
35 / 40
躾られた悪意

6

しおりを挟む


「なーイスミ~」
「なんでしょう?」
「何で俺は留守番なんだ?」

 ヤタマルは指揮官となったイスミの背後にぴったりと身を寄せて、ちょうど良い位置にある頭の上に顎を乗せた。
 ふわふわとイスミの黒髪が風に乗ってこそばゆい。
 イスミはヤタマルを振り払うことなく、そのまま戦闘の様子を観察していた。

 イスミのヤタマルへの指示は待機。
 真っ先に手駒にされることに慣れたヤタマルには新鮮な指示だった。

「それは……上手く言えませんが、予感と言うやつでしょうか?」

 顎に手を当てヤタマルに答えながらも、その視線は眼下から逸らされることはない。
 ヤタマルはイスミの表情が気になったが、結局はそのままの体勢でいることを選んだ。
 あまりにも心地よい時間だった。

「まあ、僕はただ……僕の役目を果たすだけです」
「……っ」

 ゾクリ、とヤタマルの背中をえも言われぬ興奮が駆け上がった。
 感情の籠らないイスミの目。
 職務に忠実なだけの機械のような意思のない視線。
 しかしそれは、何よりもイスミへの信頼を強くしていた。

「やっぱり面白いわ、お前」

 言葉にした、その時。
 ヤタマルはイスミの気配が変わったのを、肌で感じ取った。
 

 イスミの両手がゆっくりと空にかざされる。
 大きく広げられた両手は、ぱたんと体の中心で合わせられた。
 本を閉じるかのようなその動作に、この後の展開を期待して全身が総毛立つ。

「サジルさん!」
「待ってたよ!」

 呼びかけたイスミの声に、サジルが返事を返す。
 イスミは眼下に向けて、通る声で指示を飛ばした。

「攻撃をしていいのは、手に何かを持って嬉しそうなやつだけです!」
「はあ?」

 イスミの言葉に思わず《悪意》の集団を覗き込む。
 言われてみれば靄のような《悪意》は、手に石や空き缶を持っている個体とそうでない個体に分かれていた。

「持っていても嬉しそうにしていないと駄目です」

 ヤタマルにはその違いが全くわからなかった。
 他人の感情を受け取れないヤタマルには、その表情から何かを察することは不可能である。
 イスミがヤタマルを外した理由がわかり、ヤタマルはその慧眼に溜飲を下げた。

「なかなか注文が多いね! 持ってないやつは?」
「持ちたがるまで待ってください! それは……」

 イスミが一度間を置いて息を吸い込んだ。
 その目が真っ直ぐに《悪意》を射る。


「ヤタマルさんの《悪意》です!」


 ざわりとヤタマルの中の何かが騒めいた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~

華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ
BL
   とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。  全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。  さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。  彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。  あの日、例の不思議な転入生が来るまでは… ーーーーーーーーー  作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。  学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。  所々シリアス&コメディ(?)風味有り *表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい *多少内容を修正しました。2023/07/05 *お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25 *エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

ボクに構わないで

睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。 あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。 でも、楽しかった。今までにないほどに… あいつが来るまでは… -------------------------------------------------------------------------------------- 1個目と同じく非王道学園ものです。 初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

処理中です...