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躾られた悪意
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しおりを挟むイスミが内部通信で総司令に呼び出されたのは、丁度一度目の集団訓練が終わったタイミングだった。
先日のヤタマルとのお遊びから、イスミの世界は少しだけ色を変えた。
あの戦闘を見ていた《継承者》からの指名が格段に増えたのだ。
そして、一般隊員からの風当たりはより強くなった。
ヤタマルまでをも誑かした男として、イスミの名は第一支部を不本意に駆ける。
元より目立つつもりのなかったイスミは、ただその事実を受け止めるしかなかった。
総司令室への道のりを辿る間もなく、齎された通信。
《支援要請。早急に解決せよ》
イスミは一つ頷いて疑問に思うことなく施設を抜け出した。
「おー! イスミ! 来たな!」
「お疲れ様です。ヤタマルさん、サジルさん」
到着早々、大仰に迎えたヤタマルを一瞥して、イスミはサジルへ向き直った。
支援要請が単独でかかることは珍しいことではない。
見回り組から《悪意》の討伐が困難とされた場合に、近くの見回りチームや、待機隊員に対して発令される。
基本的にはチームの《継承者》が専用回線を用いて行い、それを受けたエリア担当官が情報を流す仕様だった。
しかしそれは、あくまでも《継承者》に対して行われる措置である。
《継承者》からの要請で一般隊員が呼ばれることも稀であれば、イスミへ指示を出したのが総司令であるという異例。
それに気付けたのは、この場ではサジルのみであった。
「ほ、ほんとにイスミくんだ……」
「要請に応じて参りました。僕は何をすればいいですか?」
この場における現在の指揮権はサジルにある。
イスミはサジルへ状況を確認して、話を進めた。
「あそこに《悪意》が見える?」
「……ええ、いますね。それから、……一般隊員の方でしょうか」
サジルが指し示した先にいたのは、不定形の人形を取るぼんやりとした影。
そして地に伏した一般隊員だった。
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