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躾られた悪意
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しおりを挟むヤタマルは今日も今日とて単独での見回りが割り当てられていた。
イスミを指名したくともなかなか出番が回ってこない。
ヤタマルは体の中に燻る何かを紛らわせるように目の前の《悪意》を屠った。
「ありゃ? なんか隣の管轄近くまで来ちまったな」
ちょこまかと移動する《悪意》を追っているうちに、担当エリアの端まで来ていたようだ。
割り当てられたエリア外にはみ出てもお咎めがあるわけではなかったが、暗黙のルールというものはある。
ヤタマルが全域の《悪意》を討伐することは不可能ではないが、戦いたいばかりに全てを掃討してしまったら他の隊員の経験にならない。
ゆえにヤタマルは見回りの担当エリアだけは遵守するようにしていた。
救援要請を、除いて。
「おお? 逆サイドで呼び出し?」
内部通信で得られた信号を読み解き、《悪意》との戦闘への加勢であると把握する。
ヤタマルは、しめた、とばかりに唇の端を歪めて、すぐに諾の返事を返した。
「うええええ?! ヤタマルくん?!」
「おう、サジル」
ビルの上を飛び跳ねながら辿り着いた先にいたのは、サジル率いるチームだった。
まさか応援にヤタマルが来るとは思っていなかったのか、サジルが素っ頓狂な声を上げる。
不安気な顔をした一般隊員は、ヤタマルの姿を見てわかりやすく笑顔になった。
ヤタマルがいれば一騎当千。
そう思わせるほど、ヤタマルの身体能力は高い。
《継承者》としての能力が防御に振り切っている分、刀一つで戦うヤタマルは目を引いた。
「あー……ヤタマルくんが増員かあ~……うーん」
一般隊員の反応に対して、サジルの顔は明るくない。
ヤタマルは首を傾げた。
「俺じゃフフクかよ?」
「えっ、いや、不服っていうか、その頭脳派が欲しかったんだよね」
「そっか~頭脳派かあ~」
遠回しに馬鹿と言われても、ヤタマルはそれに気付かずに一緒に頭を悩ませた。
そしてヤタマルは、一つの妙案を思い付く。
「イスミ呼ぼうぜ!」
そうして、数十分のうち、ヤタマルの思惑通り、イスミはその場に召還された。
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