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色付く日常
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しおりを挟むキジトはイスミの去った扉を見つめて、なんとも言えない複雑な気持ちでため息を吐いた。
変わったやつだとは思っていた。
しかし展開された持論は想像の遥か斜め上だ。
横目で見たシシーも難しい顔をしていた。
気持ちは一緒だろう。
「なあ、イスミちゃんって《継承者》じゃないよな?」
「《継承者》だろうなぁ、間違いなく」
イスミの腕に巻かれたブレスレット。
黒の腕時計と不似合いなそれは、おそらく能力の制御装置だ。
アンバーの輝きが、わかるものにはそれを理解させた。
キジトの耳当ての中にも埋め込まれた石は、《継承者》の能力を制御する作用を持っている。
組織外でのみ制御をかけているキジトと異なり、イスミは組織にいる時もそれを身に付けていた。
《継承者》として、公開されていない《継承者》。
そんな存在を、当然ながらキジトは知らない。
それをイスミに問うことは簡単だが、問うことで今の関係が崩れることを、キジトは望んでいなかった。
「相当、弱い能力だよな、対価もわかるし」
シシーの言葉に頷きを返す。
得体の知れない対価と、その強いだろう能力。
キジトの対価に影響を及ぼさず、キジトの能力の影響を受けない対価とは。
「……お前は何か感じたかよ」
シシーに向けた問いは、我ながら狡いとは思った。
シシーの対価でイスミの秘密をこそこそ知ろうとすることも。
そしてシシーがそれに明確な答えを出せないことも、わかっていたから。
「うーん、少なくとも嘘はあったよね」
「まじか……」
語られた言葉に裏がないとすると、どんな感情でイスミはそれを告げたのだろう。
「というか、言葉と本心がイコールじゃないから、よくわかった」
それの意味するところは、あれがイスミの本心だと言うことだ。
「でも、なんか……違和感がないっていうか……」
「違和感?」
珍しく言葉を濁したシシーに、キジトは眉を寄せて首を傾げた。
シシーは腕組みをして、思案している。
言葉を探しているようだった。
「意識的に、俺たちが欲しくない言葉を、選んでないっていうか……」
欲しい言葉を、選ぶ、その真意が。
欲しい言葉を選ぶことが当然と言う行動だとでも言うのか。
「わっかんねーな」
「一つわからないことがあるぜ」
キジトは匙を投げて屋上に寝そべった。
それを見てシシーがにんまりと楽しげな声をかけた。
「お前の恋、上手くいきそうだな」
「うっせ」
行動の真意を理解するただ一人の男に蹴りを一つ入れて、キジトはそっぽを向いて目を閉じた。
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