神々のストーリーテラー

色付く日常

4

　昼の時間になり、イスミは弁当箱の入った巾着を机に置いて、行儀良くその迎えを待っていた。

　先程キジトとシシーから声をかけられたことが、すでに噂として広まっている。
　教室中から向けられる視線は、大半が興味。残りの数割は怒りや妬みだった。

　イスミはクラスメイトをクラスメイト以上の位置に位置付けていない。
　ゆえに友人と呼べるものはいないが、無視やいじめを受けているわけではないので特に何もしなかった。
　手伝いを持ちかけられれば応じる。ただそれだけだ。

　イスミに彼らが話しかけてこないということが、キジトを恐れてのことだと薄々感じていたし、イスミは自ら彼らに関わろうとはしなかった。


「イスミ」

　声をかけられて振り返ると、扉に腕をかけてキジトが顔を覗かせていた。
　後ろにはシシー。
　キジトと同じくAクラスに振り分けられた《継承者》だ。

「今行きます」

　イスミは後をついて歩きながら、シシーの能力を頭の中から引き出していた。

　ストーリー名を、真実の悲劇。
　その能力は、相手の言動の本来の意味を理解する。それは言葉に限定されず、《悪意》の行動原理すらも理解するという。

　イスミは事実のみを脳で再生して、相性が悪い人物かもしれない、とぼんやり思った。



　二人についてやってきたのは校舎の屋上だった。
　あの箱庭と同じくキジトのテリトリーになっているのか、ほかに人影はない。

　タンクの影に腰を落ち着けて、各々の昼飯を広げる。
　イスミは巾着から弁当箱を取り出して膝の上に置いた。

「イスミちゃんは、手作り弁当じゃないんだ？」

　シシーが興味深そうにイスミの弁当を覗き込んできたので、イスミは蓋を開けて中身を晒した。
　シシーは言葉が逆さまになるだけでその表情は雄弁なため、さほど混乱することはない。
　彼の対価を知っているからこそであるが。

「はい。母が毎日作ってくれます」

　今日の弁当のメインは生姜焼きだった。
　綺麗に詰められた卵焼きは、甘く味付けがされている。
　かつてのイスミの好物だった。
　今はただ、甘いという事実を受け止めるのみであるが。

　シシーとキジトは昼食をコンビニで買ったようでビニール袋から各々中身を取り出していた。
　シシーは大量のパン、キジトは焼きサバの弁当である。
　母以外と食事をする経験が少ないため、イスミは弁当を口に運びつつ、二人の食事風景をそっと観察していた。


　食べ終わったパンの袋を几帳面に折り畳んでからビニール袋にいれたシシーが、唐突に話題を切り出したのは、弁当の中身がほとんどなくなった頃だった。

「もしかしてイスミちゃんって友だち多い人？」

　友人がいないのかを確認する言葉に、イスミは面を食らって目を丸くした。
　初対面でそれを聞くのは普通なのか。
　一瞬思案するが、イスミは結果的にその言葉をそのまま受け取って返事を返すことにした。