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恐惶の政治
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しおりを挟む「……ところでお前よぉ」
「はい?」
未だ大人しく隣に座るイスミに、キジトはため息を吐きながらその体をベンチへと深く沈めた。
「初対面のヤツから仕事押し付けられてんじゃねーよ」
自分も初対面だがこの際それはどうでもいい。
キジトは人を避ける分、懐に入れた者にはとことん甘い。
それを自覚したのはイスミに出会ってからだが、キジトはせっかく得た《自分を避けない人間》を手放す気はなかった。
そしてイスミの放つ雰囲気が、キジトを一種の焦燥に駆り立てる。
放って、おけない。
「あいつのために……お前の時間使うことねーだろ」
「こういうのは、出来る人がやればいいと思うんです。……誰にでも得意不得意はありますから」
なんでもないことのように言うイスミであるが、他人の始末書を仕上げるなど本来容易ではない。
自分と同じくらいかそれより下に見える少年が容易くやってのけることとは、キジトは到底思えなかった。
第一、投げた張本人は成人している。
「……お前、お人好しだな」
「よく言われます」
キジトは呆れを全面に出してイスミを見つめた。
イスミは穏やかな顔をしている。
表情からは何も読み取れなかった。
こんな時、いつもであれば自分に対する相手の怯えの感情が伝わってくるはずであるが、何故かイスミにはそれがない。
キジトには、イスミが何を考えているのか皆目検討もつかなかった。
そんなことはこの能力を得てから初めてで。
だからこそ、おもしろい。
キジトはニヤリと口の端を歪めて、はっと声を出して笑った。
「?」
かくいうイスミは何故笑われたのか理解できない様子で首を傾げている。
「僕、そろそろ行きますね」
イスミが腕に嵌めた時計を見て、はっとしたように鞄に書類をしまいはじめた。
シンプルな黒の腕時計に、少し嫉妬する。
そのベルトの横に巻かれた琥珀色の石の連なったブレスレットがしゃらりと音を立てていた。
「……待てよ」
立ち上がって箱庭の出入り口に足を向けたイスミを思わず呼び止める。
イスミは振り返って、キジトを見つめていた。
「俺はここに来てる時は大体ここにいるからよ、……また、来いよな」
柄にもないことを言った自覚はあった。
自分の頬に赤みが差すのがわかる。
キジトは照れ隠しにうなじを掻いた。
顔を伏して、目だけでイスミの動向を伺う。
「はい。ぜひ」
イスミは綺麗にお辞儀をして箱庭を出て行った。
面映い気持ちが芽生えて、キジトはイスミの残した温もりを堪能するように、ベンチに横になってその目を閉じた。
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