神々のストーリーテラー

みん

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恐惶の政治

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 人から向けられる視線や感情が煩わしくなったキジトは、組織で戦闘技術を学ぶ傍ら、束の間の癒しを求めていた。

 元来の身体能力の高さ故に、頭角を表したキジトは、どこにいても注目の的だった。
 十五歳で組織の一員となってから、十八歳となる今に至っても、それは変わらない。
 私生活では高校三年になったが、あの日壊れた日常は戻って来なかった。

 白い服を纏い始めたのは、高校に入学した頃だった。
 太陽の光と一緒で、向けられる視線が僅かばかり散らされると気付いたからだ。
 しかし、全身白い装束というのは、かえって目を引くものである。
 キジトは毎日を、苛立ちと共に過ごしていた。


 なのに。


 目の前に突如として現れた少年。
 イスミ・アドレアル。


 なんの抵抗もなくこの箱庭に侵入してきたイスミは、驚くほどに不思議な存在だった。
 こんなに近くに来るまで、自分が気付かないなんて。

 威嚇をものともせず自分に近付いてくるイスミに、キジトは混乱した。

 自分の威嚇にたじろがないものなど、ヤタマルくらいなものである。
 もっとも、ヤタマルが威嚇に応じないことは、ヤタマルの持つその能力故であり、キジトはそれ故にヤタマルが気に食わなかった。


 キジトは、イスミがこの場所に無遠慮に侵入してきた意図を探ろうと意識をイスミに向けた。

 そして、ふと気が付く。

「あ?! は?! ちょ、ちょっと待て!」

 立ち止まったイスミからは、自分に向ける感情が全く感じられなかった。
 それどころか、うっすらと漂う他人の残滓さえもが霧散していることに気付く。

 キジトは、もしや、と思い、イスミに問いかけた。

「……お前、もしかして《継承者》か?」
「?!」

 目の前のイスミが目を見開いてキジトを見つめている。
 こんなにも近くで見つめ合っているというのに、その感情はまったくキジトに響かない。

 《継承者》であることは間違いない。
 しかし、目の前のイスミは首を縦に振ろうとはしなかった。
 自分の能力をひけらかすことを良しとしない者もいる。
 この平凡な少年もそうなのかもしれない。

 キジトはそう結論付けたが、戸惑いが消えるわけではない。
 キジトは久方ぶりのその感覚に、大いに動揺していた。

 だから、あんなことをしてしまったのだ。


 正気に戻った時には、キジトはイスミの腹に顔を埋めて、膝を枕にしてベンチに寝転んでいた。

 薄い体臭が鼻腔を擽る。
 不快感はない。

 それどころか、近年感じなかった静謐な空気に、自然と瞼が落ちていく。

 静かだった。

 イスミの鼓動と、自分の鼓動。
 風のざわめきと、それだけに満たされた箱庭。

 キジトはヤタマルが騒々しく乱入してくるまで、その穏やかな時を、ただ、受け入れていた。
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