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厚顔無恥の末路
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しおりを挟む何も答えないキジトに興味を失ったヤタマルは、じっと自分を見つめている少年に視線を移した。
「お前、名前なんつーの?」
「えと、イスミ・アドレアルと言います。第一支部の一般隊員です」
イスミはそういうとぺこりと頭を下げた。
イスミ・アドレアル。
聞いたことのない名である。
キジトと違い、一般隊員にはそこそこ尊敬の眼差しを向けられているヤタマルであるが、聞き覚えはなかった。
ヤタマルとて一般隊員の名前を須く覚えているわけではない。
ただ、一般隊員の中でも強者に数えられる者の名前は覚えていた。
自主訓練の相手をお願いするためである。
聞いたことがないということは、それほど上位の実力者ではないのだろう。
そんな彼が、なぜキジトと?
ヤタマルは目を細めてイスミを見た。
見れば見るほど平凡な少年である。
戸惑ったように首を傾げる姿が、何となくヤタマルの庇護欲をくすぐった。
真っ直ぐに自分を見つめてくる瞳が好ましい。
もしや、と思ってヤタマルはイスミに体を向けてその長い指を顎に持っていった。
「もしかして……俺に惚れたか?」
「んなわけあるか! 厚かましいにもほどがある!」
「ありゃ、ちがった?」
ヤタマルの言葉に答えたのはイスミではなくキジトである。
キジトはイスミを抱き寄せてヤタマルから距離をとった。
イスミは驚いたような困惑したような顔でされるがままになっている。
それもまた、面白い。
ヤタマルは二人をふぅん、と見つめながら、二度ほど頷いた。
考えても自分には理解できないということを、理解したからだ。
「……で、お前はなんできた」
ここにきて本題である。
キジトは面倒そうにその真っ白な袖から垣間見える白い腕で、灰色の頭を掻いた。
「あっ、そうそう」
ヤタマルは用事を思い出し、手に握っていた書類をキジトに差し出した。
すでにそれはぐちゃぐちゃである。
「この前俺とお前でトドメさしたヤツの、始末書。お前、街壊しただろ」
先日の見回りの際に起こした民間への被害報告書である。
ヤタマルとキジトは別のチームで見回りをしていたが、《躾られた悪意》を追っているうちにかち合って共闘して倒した経緯がある。
「壊したのお前じゃねーか」
キジトは眉を上げて眉間に皺を寄せた。
キジトの言い分も半分正解である。
キジトの攻撃で割れた地面を最終的に抉ったのはヤタマルだった。
「でも同じ場所にいただろー? レンタイセキニンだって」
ヤタマルは書類仕事が苦手だった。
ここに来た本来の用事は、その書類をキジトに押し付けるためである。
「書いてはみたけど良くわかんねーからさ~。確認してほしー」
そして書類はまんまとキジトの手に渡った。
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