神々のストーリーテラー

プロローグ

6

　もそもそとパンを頬張りながら、イスミは男の頭にパンくずを落とさぬように気を張っていた。

　何とも穏やかな時間だ。

　整った顔立ちの白い男。
　衆人環視の環境なら、またイスミの噂が増えたことだろう。

　ハズレクジ。
　足手纏い。
　組織に裏から取り入った平凡。
　《継承者》に尻尾を振る犬。

　視線に晒されないだけで、こんなにも疲れない。

　イスミはパンの袋を閉まって、男の髪にクズが埋まっていないか、再度頭に手を伸ばした。

「おーい、キジト」

　その時、草の影から音もなく第三者が現れて、イスミは思わず体を跳ねさせた。

「？！」
「へ？」
「……んだよ」

　膝の上の男ものそりと起き上がる。

「あ、これ、面白いやつ？」

　突然の闖入者が齎したこの三人の出会いが、神の物語の一部であることを、この時の誰もが理解していなかった。