隻翼の月に吠える。

みん

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隻翼の月

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「おはよう~」
「おはよっ」
「おはよう」
「……おはよう」

 教室に足を踏み入れたミナリアを迎えたのは、友人たちとのいつもと変わらない挨拶だった。
 椅子に座って出迎えたルーインとイツァージュに、机に凭れるガタム。
 ここにきて慣れた日常に、ふっと肩の力が抜ける。
 そのなんの変哲もない光景がとてもお眩く感じるのは、ユイセルとの関係が昨日で変わったからだろうか。

「あれ? ミナリア今日鎧着てる?」

 椅子に座るために移動したミナリアのどこかぎこちない動作に気が付いたのはイツァージュだった。
 癒術を嗜む性質上、体の不調には敏感なのかもしれない。

 ミナリアは腰を下ろしながら、イツァージュの疑問に何気なく返答した。

「ああ、鎧ではないが、義足の接続がまだ馴染んでないんだ」
「えっミナリアって義足だったの?」

 驚きに見開かれる三対六つの視線がミナリアに向けられる。
 そう言えば言ってなかったか? とミナリアは思案した。

「右脚を昔な。昨日外したから、接続し直したんだが」
「なるほど、外すようなことをしたわけね」

 ミナリアはその言葉に一切の動きを止めた。
 義足以上に稼働悪く首を向けると、ルーインのニヤニヤとした顔が目に入る。
 途端、ミナリアは身体中を赤くして言葉を失った。

「な、ななななななに、なに、なにを………っ」
「いや、動揺しすぎ」
「まあ、昨日俺らを置いてどこぞに行ってたみたいだしな」

 何となく事情を把握している二人に小突かれながら、ミナリアは頭を抱えて机に突っ伏した。

「えっ? えっ? 何の話?」

 経緯を理解していないイツァージュだけが疑問符を浮かべてミナリアの代わりに二人に詰め寄る。

「恋の話」
「やめろ! 恥ずかしい!」

 ミナリアは堪らず体を起こして声を上げた。

「え……えええええええ?!」
「騒ぐな、お願いだから落ち着いてくれ」

 遅れて反応したイツァージュも顔を赤らめてミナリアを見つめている。
 居た堪れずにミナリアはイツァージュの肩を叩くように席に着かせた。

 その拍子にバランスが崩れた体が横に傾く。

「あっ」
「おっと」

 危なげなく受け止めたのはガタムの腕だった。
 思った以上に義足が馴染んでいない。
 ミナリアは礼を言ってその体を支えにして椅子に戻った。

「無理すんなよ、昨日の今日だろ」
「無理してない!」
「えっえっ、やっぱり……っミナリア、体辛くない?」
「余計な心配だ!」
「何これ笑う」

 ニヤつくガタムと赤くなりながらも気遣うイツァージュ。
 そしてそれを見て笑うルーインに、ミナリアは頬を染めながらも心の中で感謝をした。
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