隻翼の月に吠える。

みん

文字の大きさ
上 下
50 / 58
気高き翼

3

しおりを挟む

 一瞬の動作に反応が出来なかった。
 ユイセルといるとどうも無防備になる自分が不思議で仕方ない。
 空気に晒された下半身。
 ユイセルの花を慈しむ指先が、するりと自らの後孔を探っている。

「ゆゆゆ、ユイセル?!」

 あまりのことに客観的に描写せざるを得なかった事実に、たじろいで布団をずり上がる。
 しかし、その体は熱のこもったユイセルの腕に簡単に縫い留められてしまった。

「……ここに、リアの中に、入りたい」

 あられもしない場所に指先で触れられ、艶っぽく囁かれた言葉にやっと合点がいく。
 ユイセルはするつもりなのだ、自分と、繁殖行為を。

「……っそん、な、いきなり……っ」
「……だめ?」
「くっ……卑怯だ……っ」

 子犬のような目で見上げられてミナリアは思わず顔を背けた。
 興奮で上気して潤んだ瞳と、緩んだ頬がミナリアの心を揺るがす。
 全身で自分を愛おしいと伝えてくる自分の男を拒絶など出来るはずがなかった。

「……待て」

 腹を括ったミナリアは、ユイセルに待てをさせると、手のひらを握ってその中に魔素を固めた。
 開いたそこに、親指大の丸い玉。
 つるりとした表面は、鏡のようにユイセルの顔を映した。

「これは……?」
「……遠征の時に使う洗浄丸だ。……中に、触れるのだろう?」

 真国騎士団が魔素を練って作る必携品。
 後孔からそれを納めることで不浄の一切を消すそれは、この後の行為を受け入れるのにきっと役に立つ。

 ユイセルはそれを受け取ると、ごくりと生唾を呑んでミナリアの下肢に手をかけた。

「じゃ、あ……うつ伏せに、するね」
「待て、義足を外す……」

 左右の重さの違う体は、ユイセルには扱いづらいだろうことを思い、ミナリアは体を起こして義足の繋ぎ目へと手を伸ばした。

「……っん、」

 特注の義足の価値は、その回路にあった。
 神経を模した回路は、ミナリアの意思となり自由に動かすことが出来る。
 しかし、残ったミナリアの神経と回路を繋ぐ部分は非常にデリケートだ。
 付けるのも外すのも、文字通り神経を使う。

「は……っ」

 神経と回路を繋ぐ魔術式を解く作業は、神経に潜り込んだ細い糸をずるりと抜き取るのに近い。
 深くまで潜り込んだそれは、ミナリアの神経を内部から擦り上げて、ミナリアの体を悪戯に跳ねさせた。

「んぅ……っん、」

 唇を噛んでその感覚に耐え、漸く義足を外したミナリアは、先程ユイセルとの口付けに溺れていた直後のように胸を上下させていた。
 くったりとベッドに預けた背中まで息を吸い込んで、安堵とともにユイセルを見上げる。
 みっともなく歪んでいただろう顔は、ユイセルだから明かしたものだ。
 そうでなければ、ミナリアのプライドが許せない。

「終わった、ぞ……?」

 見上げたユイセルの顔が思ったよりも至近距離にあって、ミナリアはびくりと体を硬くした。

「リア……」
「はい……」

 ユイセルの据わった目に、思わず敬語になる。
 ため息を吐いたユイセルは、がしっとミナリアの肩を掴んだ。

「……義足外したのは、俺以外に見せちゃ駄目だからな」
「え、あ、もちろん」

 元よりそのつもりで。

「やくそく」
「……ユイセルだから、見せたんだ」

 ユイセルの言葉に目を逸らしながら頷く。

 だからミナリアは自分の言葉がユイセルを煽った事実に気が付かなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

釣った魚、逃した魚

円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。 王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。 王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。 護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。 騎士×神子  攻目線 一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。 どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。 ムーンライト様でもアップしています。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

処理中です...