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その鎧を外すのは
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しおりを挟む簡易的に設られた義足は、思ったよりもミナリアの行動を制限した。
義足すらもなかった状態で森を抜けた頃に比べれば格段の差ではあるが。
その足で、ミナリアはシャトマーニに続いて王の間へと訪れた。
広々とした空間に、存在感を放つ一つの玉座。
本来は重臣が集うであろうその場には、シャトマーニのみが控えている。
対面に椅子を一つ置かれて、ミナリアはその横でその時を待った。
「よう、お前がミナリアか?」
「?!」
唐突に真横から掛けられた声にミナリアはバランスを崩して椅子へと沈んだ。
椅子がなければ硬い床へ体を打ち付けていただろう。
ミナリアは混乱しつつもその男を見返した。
「……閣下。戯れが過ぎます」
「いいじゃねーか、シャトマ。相変わらず堅苦しいな」
王。
この男が。
ミナリアは真国の最たる権力を前に、固唾を飲んで見上げるしかなかった。
「カラザール=ファルマダール。よろしくな」
馴れ馴れしい口調に反して、全く気の抜けない男である。
長い黒髪と、頭の横から伸びた角。
深紅のマントを翻して、その男、カラザールは玉座へと腰を下ろした。
「お前、創神の神話は知ってるか?」
カラザールが最初に口にした質問はそれだった。
意図を測りかねるが、ミナリアは母に聞かされた物語を脳内に思い出す。
「一匹の獣が……」
「そう、それだ」
ミナリアが全てを語る間もなくカラザールは話を続けた。
「真国ではな、王になるものは生まれた時から強者で、王だ。だから俺は王になった」
「生まれた時から……?」
「真国王は、獣と共に生まれ落ちる。先の真国王の獣は、美しい白い大きな鳥だったな」
ミナリアは自らの背の翼を振り返った。
ぼろぼろに折れ曲がったそれは、美しさからは程遠い。
ぐっと唇を噛んで、ミナリアはカラザールを見つめた。
「俺の獣だ」
カラザールはミナリアの視線を受けながら、何もない空間に腕を振り下ろした。
ぽっかりと漆黒の空間が開いて、中に艶めく漆黒の毛並みがふわりと舞った。
犬のような、狐のような。
吻を持った四つ足の獣だ。
その獣の額からは一本の角が伸びている。
しかしその獣は瞳を閉じて丸くなって眠っていた。
「……目覚めていない。俺はまだ仮初の王だ。だから俺を王と認めないやつも中にはいる」
カラザールは切なげに目を細めて愛しそうにその獣を空間に戻した。
何故、自分にそんな重要な話をしたのか理解できず、ミナリアはそのままカラザールの言葉の続きを待った。
「お前はよ、その翼に誇り持ってたんだろ? 見りゃわかる」
カラザールは真っ直ぐに自分を見つめている。
美しい翼を失った自分に、何を言おうと言うのか。
ミナリアはカラザールの言葉に下を向いて拳を握った。
「……お前は、如何にして這い上がる?」
ミナリアははっとしてその顔を正面に向けた。
「お前の目はまだ死んでねえ。お前の価値を示せ」
ミナリアは震える唇をゆっくりと開閉して、ぐっと目を閉じた。
生きると、決めたのだ。
翼を失っても、脚を失っても、なお。
「……強く、なる。誰よりも、強く」
「……いい目だ。お前を養子に迎えてやる。我が息子ミナリア。その日を待っている」
そしてミナリアはミナリア=リィントス=ファルマダールとなった。
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