隻翼の月に吠える。

みん

文字の大きさ
上 下
41 / 58
その鎧を外すのは

2

しおりを挟む


「俺は、……そんなに、弱く見えるか?」

 最初に吐き出したのはそんな言葉だった。
 はぁ? と声を出したのはガタムだ。
 ルーインはガタムを視線だけで黙らせて、ミナリアの言葉に真剣に向き合った。

「戦闘能力だけだったら、ミナリアが強いことはみんなもう知ってるんじゃないかな。誰かに弱いって言われたの?」
「いや……あの程度の魔物に負けるように見えるのかと」

 ミナリアは自分の手のひらをじっと見つめた。
 数多の魔物を屠ってきた手。
 守るために身につけた力は、けして弱くはなかった。
 しかし、他でもないユイセルだけが、ミナリアの力を信用しない。

「あー……なんとなくわかった」

 ミナリアの言葉に最初に反応したのはルーインだった。
 ルーインは言葉を探して何度か唸ると、何かを覚悟したようにミナリアに向き直った。

「ミナリアさ……もし、家族が、誰かに怪我とかさせられたらどう思うの?」

 急な話題転換に付いて行けずにミナリアは二度瞬きをした。
 それでも、この問いの先に答えがあるのだとミナリアは真剣に脳内でシチュエーションを再生した。

「……すまない、家族が怪我をしている場面が思い付かない」

 カラザールもシャトマーニもミナリアよりも強者である。
 常に兵に守られているムザルについても想像は難しかった。

「う、そ、そっか……じゃあユイセルくんは?」
「ユイセル? ……今日は相手を殺したが」
「違う! そうじゃなくて、ユイセルくんに対してどう思ったの?」

 ミナリアはあの時の感情を振り返った。

 怪我をしたユイセル。
 母を、翼を失った時の絶望。
 そして、また大切なものを守れなかったという、後悔。

「……絶望、した」
「そりゃまた苛烈だね?!」

 ルーインと二人で頭を抱え始めた時。
 お手上げのルーインに助け船を出したのは、これまで傍観していたガタムだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

処理中です...