39 / 58
向けられた刃
11
しおりを挟む意思を持たないはずの魔物がまるで嘲笑うかのように自身の攻撃を避けるのを、ミナリアは舌打ちをしながら見つめていた。
ここまで大きな魔物と対峙するのは久方ぶりである。
その上明確な意思を持って動く魔物を前に、ミナリアは冷静に脳内で情報を整理しながらその剣を奮っていた。
突然学内に沸いた魔物。
教師の不在に現れたタイミング。
他の生徒を無視してミナリアにのみ向けられる攻撃。
それが導き出す答えは。
「……リア!」
繰り出された斬撃を剣で受けきれずに頬に線が走る。
武器や装備が異なる上、体内の魔素が使えないこの状況では、いつもの力は出せない。
焦ったようなユイセルの声が、ミナリアの怒りを増していく。
自分の怪我などどうでもいい。
ユイセルに傷を付けたこの魔物は、自らの手で葬り去らなければ気が済まない。
それくらい、鍵など開けずとも容易いことだ。
ユイセルはそれを理解していないのか。
自分の力がみくびられたような気がして腹立たしい。
「はあ……」
ミナリアは、怒りに任せてその魔物をついに屠ることに成功した。
残りの武器を大気に溶かしたミナリアは、戦闘で乱れた前髪をかき上げながら地面に足を下ろした。
「リア!」
ユイセルが足を縺れされながらもこちらに駆け寄ってくる。
「ユイセル、ぶじ……っ」
無事か?
そう問うた言葉は、ユイセルに強く抱き込まれた事で中断した。
焦ってそのまま何も出来ずにいると、ユイセルの切迫した声が直接耳を打った。
「リアが……っ、傷付くの、嫌だ……っ」
「ユイセル……」
「わかってる……っ、リアが、そういう立場だって……でも、っ俺……っ」
慟哭するユイセルに、ミナリアは何も言う言葉を持たない。
ミナリアはそっとユイセルの胸を押して距離をとった。
「リアが死んじゃうかもしれないのに、俺が鍵持ってたくない……っ」
ミナリアのシャツを握りながら顔を歪めるユイセルに、胸がずきりと痛んだ。
それでもミナリアは、自らが決めた言葉を紡ぐだけだ。
「俺は、皆を守るための盾であり、刃だ。自らのために、力は奮えない」
だが、今は今だけはきっと。
ミナリアはユイセルのためだけに剣を奮っていた。
鍵などなくても、ユイセルを守れる。
「リアは、なんで一人になりたがるんだ……っ」
「……お前に、鍵を渡したのは、早計だったのかもな」
ミナリアは初めて、ユイセルに鍵を渡したことを後悔した。
駆け寄ってきた少女が、ユイセルの隣に並ぶ。
ミナリアはそれを横目で見て、教師への報告のためにその場を後にした。
ミナリアの心がユイセルに届かないように、ユイセルの心もまた、ミナリアには届かなかった。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。


【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

もういいや
ちゃんちゃん
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが……
まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん!
しかも男子校かよ………
ーーーーーーーー
亀更新です☆期待しないでください☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる