35 / 58
向けられた刃
7
しおりを挟むユイセル=ヒュケンは、混血の村で生まれ育った。
この世界に人族と、真族の括りがあると知ったのは、つい先日のことだ。
村から出てはいけない、と言われて育ったユイセルは、十五年の人生において、初めてこの村の外に出ることを許された。
魔素を体内で練れないから、という理由だと聞いたが、正直自覚はあまりない。
いつも遊んでいる村の子供たちは、ユイセルと同じような者もいれば、体内で魔素を練れる者も同様にしていたばかりか、まったく魔素を扱えない者もいたからだ。
《村の外に出たら、絶対に鱗を見せては駄目》
実のところユイセルはこれが理由だと思っている。
一見にして普通の人族に見える見た目。
父は体表のほとんどが鱗に覆われていたが、ユイセルは僅かにしかその特徴を受け継いでいなかった。
人形に近い真族と混血は、真族の獣的特徴を隠してしまえば人族に紛れるのは簡単だった。
ユイセルの村が人族領にあるのもそれが所以である。
真族は体内で魔素を練るが故に、魔素に敏感だ。
体内の魔素を封じない限り、どんな真族でも相手が真族か否かを嗅ぎ分けることが出来る。
前腕の一部を覆った鱗をしっかりと布で巻いて隠して、ユイセルその日初めて、母について村の外に出た。
村の中と違って、街の中はどこを見ても人族とわかる見た目の者しかいなかった。
耳の生えた者も、尻尾の付いた者もいない。
街での滞在期間は三日。
行きと帰りは宿場町を経由して二日かかる。
街に足を踏み入れて数時間で、ユイセルは混血の異質さを理解していた。
昼を食べに入った酒場。
買い物で入った雑貨店。
通り過ぎた公園までも。
入り口には真族お断りの文字が踊っていた。
商売に来ていたうさぎの真族が、露店から蹴り出されている。
力の強い真族は人に近い形状をとるが、彼は体を体毛で覆い、頭頂から耳を生やした姿であった。
村では種族も何も関係なく皆が笑っていたのに、外の世界は、こんなにも生きにくいのか。
ユイセルは父の体を覆う鱗をかっこいいと思う。
母もユイセルや、弟妹の鱗を愛おしそうに撫でては、素敵だと褒めてくれた。
でも、それは、村の外では許されないことなのだと言う。
だったら、ユイセルは父と母と家族と、村全体が友人のように穏やかに過ごせるあの村にずっといたいと思った。
表向きに友好協定が結ばれてなお、色濃く残る差別に、ユイセルは切ない気持ちを抱いて、母の後を追った。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
市川先生の大人の補習授業
夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。
ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。
「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。
◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC)
※「*」がついている回は性描写が含まれております。
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる