33 / 58
向けられた刃
5
しおりを挟むその気配が現れたのは唐突だった。
ミナリアが足を進めた斜め前方。
空気を切り裂き、こちらに向かってくる風の刃。
魔物か、と頭の片隅で思いながら、ミナリアは一歩横にずれて、その攻撃を回避した。
「しま、った……っ」
通過した刃が巻き起こした風が頬を撫でて、ミナリアは自らの失敗に気が付いた。
普段の自分なら弾き返していただろう、それ。
ミナリアが避けたことで、威力を残したそれは真っ直ぐに背後のユイセルの元へ向かっていた。
「ユイセル……っ」
ミナリアが声をかけるより早く、ユイセルは、隣にいた少女を庇うように覆い被さって地面に伏した。
地面を抉りながら二人の元へと辿りついた刃は、すんでのところでユイセルの横を一閃している。
「ユイセル!」
「……リア?」
堪らずユイセルの元に駆けたミナリアを、ユイセルが驚愕の眼差しで見つめる。
少女の上からどいたユイセルの手を取って、その無事を確認した。
隣で少女が驚いているが、気にしてなどいられない。
「……擦りむいたのか」
「平気、すぐに治る」
ユイセルはミナリアを安心させるように微笑みを浮かべた。
しかし、その呼吸は震えている。
無理もない。一歩間違えば、こんな怪我では済まなかった。
それを自覚した瞬間、ミナリアの背中が、ぞわり、と騒いだ。
真っ赤に染まった母。
何も出来なかった自分。
捥がれた背中の痛みと、絶望。
バサバサと、羽ばたきが、耳を打つ。
校内の森の上、群れをなして浮かぶ鳥のような、魔物。
群れの中央に、一際大きな個体。
探るまでもなく、ただの小物。
ミナリアが屠ってきた数多の魔物とは比較にならないくらい、ただの、弱者。
意思を持たないはずの赤い目に、明らかな愉悦。
刃が抉った地面に喜んで、醜く鳴き声を漏らすその姿に、ミナリアはそれを敵として認識した。
「おまえ……」
《誰に刃を向けやるか》
ミナリアは対峙した魔物と同数の剣を中に作り上げ、その一本を掴んで群れへと突入した。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
釣った魚、逃した魚
円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。
王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。
王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。
護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。
騎士×神子 攻目線
一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。
どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。
ムーンライト様でもアップしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる