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向けられた刃
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しおりを挟むその気配が現れたのは唐突だった。
ミナリアが足を進めた斜め前方。
空気を切り裂き、こちらに向かってくる風の刃。
魔物か、と頭の片隅で思いながら、ミナリアは一歩横にずれて、その攻撃を回避した。
「しま、った……っ」
通過した刃が巻き起こした風が頬を撫でて、ミナリアは自らの失敗に気が付いた。
普段の自分なら弾き返していただろう、それ。
ミナリアが避けたことで、威力を残したそれは真っ直ぐに背後のユイセルの元へ向かっていた。
「ユイセル……っ」
ミナリアが声をかけるより早く、ユイセルは、隣にいた少女を庇うように覆い被さって地面に伏した。
地面を抉りながら二人の元へと辿りついた刃は、すんでのところでユイセルの横を一閃している。
「ユイセル!」
「……リア?」
堪らずユイセルの元に駆けたミナリアを、ユイセルが驚愕の眼差しで見つめる。
少女の上からどいたユイセルの手を取って、その無事を確認した。
隣で少女が驚いているが、気にしてなどいられない。
「……擦りむいたのか」
「平気、すぐに治る」
ユイセルはミナリアを安心させるように微笑みを浮かべた。
しかし、その呼吸は震えている。
無理もない。一歩間違えば、こんな怪我では済まなかった。
それを自覚した瞬間、ミナリアの背中が、ぞわり、と騒いだ。
真っ赤に染まった母。
何も出来なかった自分。
捥がれた背中の痛みと、絶望。
バサバサと、羽ばたきが、耳を打つ。
校内の森の上、群れをなして浮かぶ鳥のような、魔物。
群れの中央に、一際大きな個体。
探るまでもなく、ただの小物。
ミナリアが屠ってきた数多の魔物とは比較にならないくらい、ただの、弱者。
意思を持たないはずの赤い目に、明らかな愉悦。
刃が抉った地面に喜んで、醜く鳴き声を漏らすその姿に、ミナリアはそれを敵として認識した。
「おまえ……」
《誰に刃を向けやるか》
ミナリアは対峙した魔物と同数の剣を中に作り上げ、その一本を掴んで群れへと突入した。
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