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向けられた刃
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しおりを挟むその日の午後、ミナリアは足早に訓練場へ向かっていた。
昼を切り上げて出てきたため、いつも行動を共にしているチームメイトは一緒ではない。
ミナリアはかつての自分と照らし合わせて、今の自分に必要なことを正確に理解していた。
ムザルと出会った当初、ミナリアは今と同じように感情を持て余していた時期がある。
自分に向けられたムザルの思惑がわからず、そして自分の中に芽生えた感情もわからずに、ただ悶々とした日々を過ごした。
結果として一人の時間が解決したのだと思う。
一人で無為に時を過ごし、考えて、母と過ごした日々を懐古し。
そしてミナリアはそれが家族愛だと気が付いた。
だから、今の自分に必要なのは、この感情の正体を理解するために考える時間だ。
一人で、じっくりと考える、時間。
そのために今はただ、体を動かして余計なことを考えたくなかった。
今日の訓練は自主訓練である。
近日開催される学内のイベントの準備で、訓練官が不在となるための措置だった。
自主訓練のための訓練場は敷地内に複数点在している。
ミナリアはそのうちの一つへ向かって足早に移動をしていた。
ふと、通り過ぎようとした中庭。
「……ぁ」
その開放的な空間の向こうに、自らを悩ませる男の姿。
ユイセル=ヒュケン。
授業のために教室を移動するのか、その手には本が数冊抱えられていた。
ユイセルはまだミナリアに気が付いていない。
声をかけようかかけまいかミナリアは一瞬逡巡した。
校内での接点はまだ公になってはいない。
チームメイトには知人である旨は伝えてあるが、ミナリアの周囲ではそれだけだ。
ユイセルの交友関係は、ミナリアは感知していない。
それに対して再び心が騒がしくなる。
ミナリアは振り切るように、ユイセルに声をかけようと手を上げかけた。
「ユイセルくーん」
「……っ」
声をかけたのはミナリアではない。
ふわふわとした桃色の髪を靡かせた、可憐な女子生徒。
ユイセルの背後から現れた彼女は、何かを話しかけてその隣に並んだ。
ユイセルの隣に、自分でない誰かがいる。
軋んだのは、心か、義足か。
今はこの感情の整理をする方が先だ。
声をかけることを諦めたミナリアは、今来た方向へ踵を返した。
一刻も早く訓練場に行って、一度思考を空っぽにしよう。
それから、ゆっくり考えるのだ。
ミナリアは常になく焦っていた。
だから、反応が、遅れた。
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