30 / 58
向けられた刃
2
しおりを挟む人真塔共立学院は二つの科に分かれている。
ミナリアの所属するのは戦闘技能科。ユイセルは普通科だった。
潜入を開始するのに分担した方が良いだろうという理由もあるが、方向性の違いが一番大きい。
魔物の討伐に特化して学ぶ戦闘技能科と異なり、普通科はその他全部を満遍なく学習する課程だ。大半の生徒は途中から得意領域を伸ばすことに舵を切る。
ユイセルも現在は総合的に魔素の使い方を習っている。
学ぶものが異なれば、当然交流もない。
ルーインがユイセルを知っているのはミナリアからすれば些か腑に落ちない部分であった。
「ユイセルって奴は有名なのか?」
ガタムも同様の疑問を呈して首を傾げている。
ルーインは顎に指を添えて思案するように天井を見上げた。
「んー……普通科の中では人気だと思うよ。顔も悪くないし、優しいとかで。よく花壇の手入れしてるから花の騎士とか言われてる」
「は、花の騎士……ミナリアそんな人と知り合いだったの?」
貴族のツテなのか、普通科の生徒とも交流があるというルーインが語るユイセルの話を、ミナリアはどこかもやもやとした気持ちで聞いていた。
自分の知らないユイセルを語られて、なんだか面白くないような感情が湧き上がる。
しかし何故そのような感情を覚えるのか些か心当たりがない。
ミナリアは内心首を傾げながらも三人の会話を聞いていた。
「はーっ、その優しさにミナリアもコロッといったってわけ? お前も普通の感性あったんだな」
「べ、べつにコロッとなど……」
ガタムに何故か納得されかけて思わず否定する。
コロッととは何だ。
別に転がされてなどいない。
「でも頭撫でるなんて聞いたことないよ? ユイセルくんもミナリアだけ特別なんじゃない?」
ルーインから放たれた特別という言葉に興味を引かれて、ミナリアは乗り出し気味に問いかけた。
「特別は、それは、どういう……」
「ミナリア綺麗だし、ユイセルくんが惚れても仕方ないじゃん?」
「ほ、惚れ……っ?!」
何故惚れた腫れたの話に急展開するのかわからずに、ミナリアは頬を染めて目を瞬かせた。
「あ、噂をすればユイセルくんだよ」
ルーインの指先を辿った窓の外。
そこには朝いつものように会話をしたユイセルがたしかにいた。
鍵を渡す前も後も何も変わらない。
ミナリアの知るままのユイセルだ。
しかし、その隣には、可憐な、少女。
どうやら荷物を運ぶのを手伝っているらしく、二人は穏やかに会話をしながら通路を歩いていた。
少女が何かを話しかけ、ユイセルが言葉を返す。その言葉を受けた少女は嬉しそうに微笑んでいた。
あまりにもお似合いの構図に、胸がちくりと痛む。
ミナリアはすぐにその痛みを気のせいだと頭の片隅に追いやった。
けれど、募ったもやもやはなかなか晴れることがない。
「あー……あれは、花の騎士だな」
「隣の女の子、絶対ユイセルくんのこと好きだね、アレ」
「ミナリアも、うかうかしてられないんじゃない?」
三人の言葉を耳から入れながらも、視線はユイセルに向けたまま。
ミナリアのもやもやした気持ちは、その日ついぞ晴れなかった。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
転生者は隠しボス
アロカルネ
BL
魔法と科学が同時に発展した世界があった。
発展し続ける対極のものに、二つの勢力が生まれたのは必定だったのかもしれない。
やがて、発展した魔法こそが覇権を握るべきと謳う者たちの中から魔王が産まれ
科学こそが覇権を握るべきだという人間たちの間で勇者が産まれ
二つの強大な存在は覇権を握り合うために争いを繰り広げていく。
そして、それはこんな世界とはある意味で全く無関係に
のほほんと生きてきた引き籠もり全開の隠しボスであり、メタい思考な無口な少年の話
注意NLもあるよ。基本はBLだけど
釣った魚、逃した魚
円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。
王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。
王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。
護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。
騎士×神子 攻目線
一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。
どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。
ムーンライト様でもアップしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる