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向けられた刃
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しおりを挟む「はぁ……」
「どうしたのミナリア、ため息ついて」
実習のない日の朝の教室は、ざわざわといつもより騒がしい。
数日前の戦功を語るもの、この後の訓練の話をするもの、自ら練った作戦をチームメンバーに披露するもの、他のチームと交流するもの。
その教室にあって、いつもと何ら変わらない朝を過ごしていたミナリアは、肘をついて窓の外を眺めていた。
心ここにあらずのミナリアに声をかけたのはルーインだった。
背後でガタムとイツァージュもまた何か言いたそうな顔で控えている。
ミナリアはというと指摘されたため息に心当たりがない状態で、首を傾げてチームメイトを見つめ返した。
「俺の顔に何かついてるか?」
「いや、ついてはないけど……」
何故か頬を染めるイツァージュに疑問ばかりが募る。
「お前明らかに綺麗になったよな?」
ミナリアはガタムの言葉を怪訝な表情で受けた。
怜悧と評されることの多いミナリアは、元より自分の顔面が綺麗である、という自覚がある。
自己肯定感の高い真族に育てられたこともあるが、ミナリアは事実を謙遜しない性格だった。
ゆえに、抱く感想は一つだけだ。
「何を今更」
「いや、今更、今更なんだけどさぁ」
言葉を濁したイツァージュに首を傾げる。
ところで、とルーインが続けたことで、ミナリアはこの話題は終わりかと肩の力を抜いた。
「例の人とは進展した?」
「はぁ?!」
ミナリアはルーインの問いを正確に理解して思わず声を荒げた。
例の、と称していることから、おそらく先日ユイセルに気を許しているとされた話を持ち出しているのだろう。
何故この流れでその話になるのか。
理解は出来ないが、三人に期待のような眼差しを向けられて、ミナリアは居心地悪く視線を逸らした。
「進展……というか、まあ……」
鍵を渡したことは言えないが、関係性の進展といえば進展だろう。
ミナリアは濁しつつも肯定を返した。
「え?! ついに付き合うの?」
「こい、恋人になったの?!」
「恋人?! な、何を言ってる?!」
ルーインとイツァージュに詰め寄られ、ミナリアは驚いて思わず後退した。
ガタムに至っては何故かショックを受けた様子でマジかよとどこか遠い目だ。
しかしそんな反応をされてもそのような事実はない。
ミナリアは期待させた分、躊躇いつつも関係を否定した。
「ユイセルは……そんなんじゃ、ない」
ミナリアの言葉に反応したのはルーインだった。
「ユイセル? ユイセルって、あの普通科のユイセルくん?」
まさかルーインがユイセルを知っているとは思わず、ミナリアは戸惑いの視線を向けた。
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