25 / 58
鍵
4
しおりを挟む時は先代人国王ハーダルの治世に遡る。
ハーダルには八人の子がおり、王子は二人。そのほかは王女だった。
いつの治世からか人国には男児が生まれにくい。
生まれてもなかなか成人を迎えられず、人国の王族は多くの子供を作ることを強いられていた。
ハーダルの長男のタキルも体が弱かった。
ゆえに王位は次男であるハルディンに譲ることとなる。
タキルは幼い頃から王位とは無縁の生活を送ってきたため、体が強くなった成人後も、ある程度の自由が許されていた。
そして、タキルは一人の真族と恋に落ちる。
先代真国王の子女、ミシェラ。ミナリアの母だった。
森での狩の最中出会った二人は、対立する種族の壁を超えて愛し合った。
タキルはミシェラの翼を美しいと讃え、ミシェラも心根の優しいタキルを受け入れた。
しかし、それは許される恋ではない。
二人は駆け落ち同然に失踪し、森の中で居を構えた。
そしてミナリアは二人に見守られて愛されて生まれる、はずだった。
その時。
ミナリアを身籠ったミシェラは、まだ大きくなる前の腹を慈しみながら、夕飯の野草を摘みに森へ出ていた。
家に帰ろうと戻る道すがら、漂う血の匂い。
家の屋根が見える頃にははっきりと聞こえて来る怒号と、沢山の声。
《ミシェラ姫を誑かした人国の王子に制裁を!》
家には火がつけられ、その前には土の上に転がった野鳥が二羽。
放り出され、壊れた弓と。
磔にされた、愛しい、タキル。
その胸に深く突き刺さるのは、真国の印の刻まれた、槍だった。
ミシェラは声も出せずに絶叫し、音を立てずにその場を立ち去った。
誰にも気付かれずに逃げ切れたのは僥倖だっただろう。
腹の子を守る。
それだけが、ミシェラの足を動かした。
そしてほどなくしてミシェラは、誰の力を借りることなく、愛した者との子供を産んだ。
《それが、貴様だ》
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説


佐藤君のおませな冒険
円マリ子
BL
高校三年生の佐藤君は、クラスメイトの西田君と化学教師•橘先生の秘密の関係を知り平凡な日常が一変する。
当惑しながらも二人に導かれて佐藤君のマゾ性が開花していくのだった……。
1999年辺りの時代を想定しています
《登場人物メモ》
佐藤 健一:18歳、高校三年生
西田 明:18歳、高校三年生
橘 智彦:38歳、化学教師
※ムーンライトノベルズにも掲載しています



そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる