隻翼の月に吠える。

みん

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※少し痛い描写があります。



 次にミナリアの記憶にあるのは、石造の冷たい空間から見える、夜の空だった。

 鉄格子で区切られた四角い部屋は、魔素を弾く素材で作られている。
 体がこの場所に固定されているため、ミナリアが知るのは、これがすべてだった。
 ミナリアの右足は、魔素を吸い取る杭によって、床へと固定されている。
 そして壁から伸びた鎖の先は、ミナリアの手足に伸びていた。

 ミナリアの自由を縛るその鎖は、ミナリアの体内の魔素を封じている。
 それと同時に、栄養補給もされているようだった。
 気がついたのは、いつまでも餓死しない自分の体を不思議に思ったからだが。

 厳重に隔離された空間に、訳もわからず5年。
 ミナリアに時を知る術はないが、現実を受け止めるのには十分な時間だった。

 母は死に。
 翼も失い。

 ミナリアには希望がなかった。
 



 その頃のミナリアは、背中の痛みと常に戦っていた。
 時折吐き気を催すほどの激痛が走るが、何も食べていない胃は何も吐き出せず、苦しみだけが募るだけだ。

 あの日、根本から切り落とされた左の翼は、今もなお跡形もない。
 幼くても翼は翼。
 体から伸びた骨である。
 男たちは表面の肉を絶った後、その根の骨を刈り取るのに労力を費やした。

 ごり。
 ごきり。
 ぎり、ぎり。

 脳内に響く音が、耳について離れない。
 そしてミナリアの背中から、その翼はついに剥ぎ取られた。
 息も絶え絶えなミナリアだったが、その時はまだ辛うじて意識を保っていた。

 続いて男たちは右の翼も切り落とそうとしたようだが、先程の苦労を思い方針を変えたようだ。

 ミナリアの右の翼は羽を毟られて見るも無惨にへし折られていた。



 視界に、くすんだ自身の銀髪が入る。
 ここにきてから手入れされることなく伸び放題のそれは、かつてミナリアの誇りだった。
 母ほど見事な銀ではないが、所々混じる金色に父親の影を感じていたから。


 先日、初めてここに男が訪ねてきた。
 男は最初にミナリアを見て眉を顰めると、ミナリアの知らない言語で何かを呟いた。

 ミナリアが首を傾げるとチッと舌打ちをして、聴き慣れた言語に切り替える。

《先の真国言語であれば吾の言葉も伝わるか?》
《……誰そ》

 男はふん、と鼻で笑って人国王立図書室の司書であると告げた。

《憐れよ、まこと憐れ》

 そして司書は、何故ミナリアがこの場所にいるのかを淡々と説いた。
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