隻翼の月に吠える。

みん

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 ミナリアの一番古い記憶は森の中である。
 ミナリアは母と手を繋いで、木のみを拾っているところだった。

 逆光となって思い出せない母の顔。
 しかし、その優しい眼差しはミナリアの記憶に強く残っていた。
 自分と同じ銀髪。
 そして母の背に光る純白の翼がミナリアは好きで。
 自分の背中の小さな羽も、いつか母のように美しく大きくなるのだと、幼いミナリアは二人きりの世界で夢見ていた。

 ミナリアに、父親の記憶はない。
 母には、父は遠いところへ行ってしまったと聞いていた。
 森の奥にひっそりと二人で隠れ住む日常。
 幼いミナリアが知る由もない事実。

 ミナリアは母だけで、そして母にもミナリアだけだった。


《誰も恨んではいけないわ》

 今となって母の言葉ではっきりと記憶しているのはそれだけだ。

 母は、ミナリアを、世界を、慈しんでいた。



 穏やかな二人きりの日常は、ミナリアが10を数えた頃まで続いた。

 ガシャガシャと響く鎧の音。
 月夜の中、母に手を引かれて、森の中を縦横無尽に逃げる。

 そして、ついに母は背中から討たれ、ミナリアを腕に抱いたままこと切れた。

 呆然と泣くミナリアを、鎧の男たちが、母の下から容赦なく引きずり出す。
 恐慌状態のミナリアをうつ伏せにした彼らは、その背にある翼を見てチッと舌打ちをした。

 二人がかりで地面に這わされ、一人の足が背中の上に乗せられる。
 そして、ぐっと体重をかけられて、ミナリアの左の翼が無遠慮に引っ張られた。

 輝く月と。
 銀閃。
 迸る、熱。

《ぃ、あああああああああああ……っ!!!》

 そして、耐え難い激痛。

 それが、意識を失う前のミナリアの最後だった。
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