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不和との邂逅
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しおりを挟む「ミナリア様、学園での生活はいかがですか?」
「……まあ、新鮮で、得るものは、あるな」
シャザムの問いに、ミナリアは素直に答えた。
「それは何より。まあ、そのあたりの詳しい話はお茶でも飲んで、その後にしましょうか」
そう言ってお茶を入れているのはシャザムである。
ユイセルは完全に借り物状態になって遠い目をしていた。
「俺はすぐにでも戻りたいのだが」
一応任務中の認識である。
ミナリアは眉を顰めて、ため息を吐いた。
「まあ、そう言わずに。まもなく彼の方も来られることだし」
「は?」
ミナリアは思わず前のめりになった。
ムザルが言う、彼の方。
それが意味するところは。
「よーう、ミナリア」
「何しに来てんですかあんた!」
突然部屋に湧いて出た魔素の塊。
その中から現れた漆黒の見慣れた美丈夫に、ミナリアは思わず立ち上がってティースプーンを投げた。
「あんたここがどこかわかってんですか! 他国の前王のプライベートルームにしれっと転移してきてんじゃないですよ!」
「あぶねーな、おい」
危なげなくミナリアの攻撃を避けたカラザールは、当然のように空いたソファに腰掛けて、シャザムが淹れたばかりのお茶を飲んだ。
瞠目したのはユイセルである。
知識として知っているだけの男が、目の前でミナリアと口論しているのだ。
「え、真国王……様?」
「貴様がミナリアの同族か。俺はカラザール=ファルマダール。ミナリアの世話は大変だろう?」
「それは確かに……」
「ユイセル?! 何を肯定してるんだ!」
ミナリアは悲壮な顔でユイセルを振り向いた。
「でも」
ユイセルはカラザールを真っ直ぐ見返していた。
「ミナリアの世話をしたいのは、俺だから」
すぐにミナリアに向けられた視線は暖かい。
ミナリアは思わず赤面して顔を背けた。
何故ユイセルが自分にそんな目を向けるのか。
何故自分はこんなにも嬉しいのか。
感情を持て余して、ミナリアは取り繕うことを忘れた。
「ほぅ……」
「へぇ……」
「なるほど……」
誰がどの音を発したのかなど問題ではない。
三人にまで暖かい目を向けられて、この場に居続けられるほどミナリアは情緒が育っていなかった。
ゆえに。
「帰る! 報告書は別途お送りします!」
ミナリアはユイセルの手を引いて扉の前へと連れ出した。
「ミナリア」
その背に、カラザールの声がかかった。
義父の、上司の、真国王の言葉に、ミナリアの足がぴたりと止まる。
「鍵は、渡したかよ?」
「…………」
無言で答えてミナリアはその場を後にした。
「まったく、うちの息子は腰が重いねえ……」
ミナリアの沈黙を正確に理解して、カラザールは父の顔で肩をすくめた。
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