19 / 58
不和との邂逅
4
しおりを挟むミナリアは久方ぶりに朝の散歩へと赴いていた。
最初にユイセルに出会ってからというもの、毎日のように繰り返していた逢瀬は、先日の討伐実習でついぞ途切れた。
実習から寮へと戻ったのは一週間ほど前になるが、グトルフのこともあり最近はめっきり足が遠のいていたのである。
朝の静謐な空気を肺に吸い込む。
空気中の魔素が身に染みて、ミナリアは軽い立ち眩みを起こした。
傍らの木に手を突こうとして空を切る。
「しま、った……っ」
「……っリア!」
倒れかけた体が力強く引き寄せられる。
背中に感じる体温と厚い胸。
背後から抱き込められた驚愕で固まるミナリアの耳に、安堵したような吐息が潜り込む。
「怪我はない?」
「……ない」
なんとかそれだけを返すと、ユイセルが首筋に顔を埋めて腕の力を強めた。
鼓動が駆け上がるように早まって、呼吸までもが早まる。
ミナリアは自分を落ち着かせるように、大きく息を吐いた。
「……怪我はないが、早く、離れろ」
「ちぇ」
拗ねたような響きを残して、ユイセルは素直に距離を置いた。
しかし心配そうにこちらを伺っている。
「……大丈夫だ」
「……リアは一人で抱え込むのが得意そうだね」
ユイセルのため息混じりの言葉に釈然としない思いで眉を顰める。
「何だそれは」
「何かあれば俺にすぐ言ってほしいってこと」
ユイセルの手が正面から伸びてくる。頭に着地する寸前でミナリアは初めて避けることに成功した。
ユイセルが肩をすくめる。
対してその顔は穏やかだった。
むず痒い気持ちが湧き出て落ち着かない。
そんな生暖かい空気の中。
ミナリアの思考を遮ったのは、人国の王城からの通信だった。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
処女姫Ωと帝の初夜
切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。
七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。
幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・
『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。
歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。
フツーの日本語で書いています。
高校サッカー部員の抑え切れない欲望
藤咲レン
BL
主人公となるユウスケがキャプテンを務める強豪校サッカー部で起こった男同士の変態行為。部員同士のエロ行為にはコーチが関わっており、そのコーチの目的は・・・。(ユニフェチ要素が盛り沢山の話になっています。生々しい表現も出ていますので苦手な方はご注意ください。)
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる