12 / 58
笑顔になって、ほしいから
2
しおりを挟む「……ありが、とう」
「どういたしまして」
耳に飛び込んだテノールに、ミナリアは薄らと目を開けて覚醒した。
記憶の中のムザルの声ではない。
顔の向きをずらすと、ユイセルがベッドサイドからミナリアを見つめていた。
お前に言った礼ではない、と口に出しかけて気付く。
何故、ユイセルがいる?
「な、んで……」
「国から通信が入った。リアの元へ行くように」
ミナリアの状態が錠を通じてムザルへと伝わったのだろう。
「そうか……」
「熱を出すイメージがないから驚いた」
そこでミナリアは誰が原因で熱を出したのかを思い出した。
しかし、それを誹る元気はない。
ユイセルの言う通り、ミナリアは体内魔素の影響で滅多に体に不調がでることはなかった。
病気もしかり、怪我もしかり。
真族は総じて身体を最適なコンディションに保つために自浄作用が備わっている。
しかし、鎖によって体内の魔素を封じているミナリアは、回復力が低下し熱も出る身体に変容していた。
そしてその落差の分、具合は思わしくない。
「辛くない?」
「問題、ない……」
心配そうに顔を覗き込むユイセルから目を逸らす。
実際は熱のせいで足と義足の継ぎ目が酷く痛んだが、事実を言うのは躊躇われた。
朝のこともあって意地になっているのはぼんやりした思考でも理解している。
ミナリアは強引に話を逸らした。
「夢を、見た……昔の、夢だ」
ユイセルはミナリアの横たわるベッドの端に腰掛けて、額にかかる銀髪を横に流した。
あまりにクリアな視界に、ミナリアはそこで眼鏡がないことに初めて気が付いた。
見られた!
今ユイセルの目に映る自分の瞳は、きっと血のように赤い。
隠していた目を見られて内心狼狽えるミナリアだが、ユイセルの視線は温かいままだった。
どうして?
気付いていないわけがない。
態度の変わらないユイセルに戸惑う。
なぜいつもこの男の前ではこんなにもガードが緩くなってしまうのか。
落ち着かない気持ちを持て余して、ミナリアは考えることをやめた。
何故かはわからない。
でも、何故か気を許している。
同じ立場だからか、それとも何か。
ミナリアは無理に自分を納得させて、そのまま続きを紡いだ。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
“孤蝶”雑多ログ
緋影 ナヅキ
BL
エブリスタにて、スター特典として出しているものの集合体です。
読まなくともなんら支障はありません。
更新をスター特典に出した順にするので、章の上下が入れ替わる事があります。ご了承下さい。
♢内容♢
【登場人物設定集】※随時更新
【華織学園案内紙】
【真琴の春休み(1年)】※未完
【ロイヤル3人組、とある日の会話】
【没話集】
【腐男子ズと騎士クンのカオスな休日】※一応完結済
*表紙は したののキャラメーカー で作成したものを加工して作者が作ったものです。つまり、ある意味二次創作です(多分違う)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
俺たちの××
怜悧(サトシ)
BL
美形ドS×最強不良 幼馴染み ヤンキー受 男前受 ※R18
地元じゃ敵なしの幼馴染みコンビ。
ある日、最強と呼ばれている俺が普通に部屋でAV鑑賞をしていたら、殴られ、信頼していた相棒に監禁されるハメになったが……。
18R 高校生、不良受、拘束、監禁、鬼畜、SM、モブレあり
※は18R (注)はスカトロジーあり♡
表紙は藤岡さんより♡
■長谷川 東流(17歳)
182cm 78kg
脱色しすぎで灰色の髪の毛、硬めのツンツンヘア、切れ長のキツイツリ目。
喧嘩は強すぎて敵う相手はなし。進学校の北高に通ってはいるが、万年赤点。思考回路は単純、天然。
子供の頃から美少年だった康史を守るうちにいつの間にか地元の喧嘩王と呼ばれ、北高の鬼のハセガワと周囲では恐れられている。(アダ名はあまり呼ばれてないが鬼平)
■日高康史(18歳)
175cm 69kg
東流の相棒。赤茶色の天然パーマ、タレ目に泣きボクロ。かなりの美形で、東流が一緒にいないときはよくモデル事務所などにスカウトなどされるほど。
小さいころから一途に東流を思ってきたが、ついに爆発。
SM拘束物フェチ。
周りからはイケメン王子と呼ばれているが、脳内変態のため、いろいろかなり残念王子。
■野口誠士(18歳)
185cm 74kg
2人の親友。
角刈りで黒髪。無骨そうだが、基本軽い。
空手の国体選手。スポーツマンだがいろいろ寛容。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる