6 / 58
学園と、出会いと
2
しおりを挟む
「なっ、なっ、何、何を」
状況を理解したミナリアは耳まで赤く染めて、言葉にならない声を発した。
冷たく見える銀髪と、人の視線を遠ざけるような眼鏡、そして地位。それらが相まって気軽に他人に触れられる機会のないミナリアは、大いに戸惑った。
騎士団の脳筋連中ですらミナリアには気軽に触れない。
「……なんとなく」
「なんとなくで人の頭を撫でるな!」
数十年も歳下の男に頭を撫でられて、ミナリアは羞恥で憤死しそうだった。
「悪かった」
ユイセルがミナリアの頭から手を退ける。ぶっきらぼうの物言いの割に言葉に棘はない。
再び差し出された手には、黄色の花弁の花が握られていた。
大気の魔素の気配がする。
「……お前が作ったのか」
「ユイセルと呼べばいい。……俺はリアと呼ぶ」
ミナリアの問いに頷きで返したユイセルは、今度は赤い花を咲かせた。
「……綺麗だな。ユイセルは花が好きなのか」
「好きだ。俺は、将来庭師になりたい」
端的な言葉の割に熱の入った言葉だった。
そんな男がなぜこの学院にいるのか。
ミナリアの疑問が顔に出ていたのか、ユイセルは手招きして演習場の中に足を踏み入れた。
土の押し固められた地面が、気持ち程度に四角く区切られている。
ミナリアとユイセルのちょうど対面にあたる壁沿いには、魔素で固められた的が並んでいた。
どうやら遠当て用のスペースらしい。
ユイセルは大気から魔素を練ると、一番左の的に向かって風の刃を放った。
刃は的の端に当たって宙に霧散する。
ユイセルは肩をすくめた。
「俺はあんまり制御が上手くない。庭作りするには、制御が大事」
「なるほどな。戦闘技術云々よりも、純粋な制御か」
ミナリアはお眩い気持ちでユイセルを見つめた。
自分のなりたいものに向かって努力する姿が、単純に輝いて見える。
かつてミナリアも努力をした時期があった。
カラザールへの恩を返そうと必死で語学を学び、カラザールのためにあろうと必死に魔物を屠る技を磨いた。
「いつか、我が家の庭を美しく飾ってくれ」
庭と言っても、王城であるが。
何も知らないユイセルは、大きく頷いた。
ひとまず、協力体制は築けそうだ。
ミナリアは安堵して小さく微笑んだ。
「だから何故頭を撫でる!」
「……なんとなく」
状況を理解したミナリアは耳まで赤く染めて、言葉にならない声を発した。
冷たく見える銀髪と、人の視線を遠ざけるような眼鏡、そして地位。それらが相まって気軽に他人に触れられる機会のないミナリアは、大いに戸惑った。
騎士団の脳筋連中ですらミナリアには気軽に触れない。
「……なんとなく」
「なんとなくで人の頭を撫でるな!」
数十年も歳下の男に頭を撫でられて、ミナリアは羞恥で憤死しそうだった。
「悪かった」
ユイセルがミナリアの頭から手を退ける。ぶっきらぼうの物言いの割に言葉に棘はない。
再び差し出された手には、黄色の花弁の花が握られていた。
大気の魔素の気配がする。
「……お前が作ったのか」
「ユイセルと呼べばいい。……俺はリアと呼ぶ」
ミナリアの問いに頷きで返したユイセルは、今度は赤い花を咲かせた。
「……綺麗だな。ユイセルは花が好きなのか」
「好きだ。俺は、将来庭師になりたい」
端的な言葉の割に熱の入った言葉だった。
そんな男がなぜこの学院にいるのか。
ミナリアの疑問が顔に出ていたのか、ユイセルは手招きして演習場の中に足を踏み入れた。
土の押し固められた地面が、気持ち程度に四角く区切られている。
ミナリアとユイセルのちょうど対面にあたる壁沿いには、魔素で固められた的が並んでいた。
どうやら遠当て用のスペースらしい。
ユイセルは大気から魔素を練ると、一番左の的に向かって風の刃を放った。
刃は的の端に当たって宙に霧散する。
ユイセルは肩をすくめた。
「俺はあんまり制御が上手くない。庭作りするには、制御が大事」
「なるほどな。戦闘技術云々よりも、純粋な制御か」
ミナリアはお眩い気持ちでユイセルを見つめた。
自分のなりたいものに向かって努力する姿が、単純に輝いて見える。
かつてミナリアも努力をした時期があった。
カラザールへの恩を返そうと必死で語学を学び、カラザールのためにあろうと必死に魔物を屠る技を磨いた。
「いつか、我が家の庭を美しく飾ってくれ」
庭と言っても、王城であるが。
何も知らないユイセルは、大きく頷いた。
ひとまず、協力体制は築けそうだ。
ミナリアは安堵して小さく微笑んだ。
「だから何故頭を撫でる!」
「……なんとなく」
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
【※R-18】αXΩ 〜男性妊娠 候補生〜
aika
BL
αXΩ 〜男性妊娠候補生〜
【※閲覧注意 マニアックな性的描写など多数出てくる予定です。男性しか存在しない世界。BL、複数プレイ、乱交、陵辱、出産、治療行為など】独自設定多めです。閲覧ご注意ください。
宇宙戦争により人類は滅亡の危機を迎えていた。
男性のみが残された世界で、人類存続をかけた「男性妊娠」のための研究が進んでいる。
妊娠させる能力値が高い者をα(カリスマ性があるエリートが多い)、妊娠可能な遺伝子を持つ男性をΩ(出産の能力が高い男性)と分類し、研究所において妊娠に向けた治療が行われていた。
とある研究所で妊娠出産を目指す、候補生たちの日々を描く物語。
4人のαには、気に入った候補生(Ω)を種付けする権利が与えられている。
α、Ωともに妊娠確率を高めるため、医師により様々な実験、治療が施されいた。
泥沼な人間関係や、それぞれの思惑が交差する、マニアックな物語になる予定です。。閲覧ご注意ください。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
死にぞこないの魔王は奇跡を待たない
ましろはるき
BL
世界を滅ぼす魔王に転生したから運命に抗ってみたけど失敗したので最愛の勇者に殺してもらおうと思います
《魔王と化した兄に執着する勇者×最愛の弟に殺してもらいたい魔王》
公爵家の若き当主であるアリスティドは、腹違いの弟シグファリスと対面したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
この世界は前世で愛読していた小説『緋閃のグランシャリオ』と全く同じ。物語と同様の未来が訪れるのならば、アリスティドは悪魔の力を得て魔王へと変貌する。そして勇者として覚醒した弟シグファリスに殺される――。
アリスティドはそんな最悪の筋書きを変えるべく立ち回るが、身内の裏切りによって悪魔に身体を奪われ、魔王になってしまう。
物語と同じ悲劇が起こり、多くの罪なき人々が殺戮されていくのをただ見ていることしかできないアリスティドが唯一すがった希望は、勇者となったシグファリスに殺してもらうこと。
そうして迎えた勇者と魔王の最終決戦。物語通りシグファリスの手で殺されたはずのアリスティドは、瀕死の状態で捕らえられていた。
なぜ物語と違う展開になっているのか、今更になって悪魔の支配から抜け出すことができたのかは不明だが、アリスティドはシグファリスに事情を説明しようと試みる。しかし釈明する間もなくシグファリスに嬲られてしまい――。
※物語の表現上、暴力や拷問などの残酷な描写が一部ありますが、これらを推奨・容認する意図はありません。
※この作品は小説家になろう(ムーンライトノベルズ)にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる